遅ればせながら『新潮』のトマス・ピンチョン特集が収録されている号を購入して読んだ。特集タイトルは「新世紀トマス・ピンチョン」。語感からは明らかに「エヴァンゲリオン(あるいはヱヴァンゲリオン)」への目配せを感じるが、ピンチョンの『ヴァインランド』以降の作品は未邦訳だったことを考えれば的確なタイトルなのかもしれない。佐藤良明監修による新訳は「ピンチョン 2.0」なのか!? 今年6月の『メイスン&ディクスン』(柴田元幸訳)から、3ヶ月に一作品。2012年まで続く「トマス・ピンチョン全小説」から目が離せない! それにしても最新作『インヒアレント・ヴァイス』まで収録されるとは!!
特集の目玉はなんと言っても「七大長編書き出し全集」(特集と言ってもほかには、池澤夏樹・柴田・佐藤による鼎談記事と都甲幸治による『ピンチョンをインテリから奪い返せ!』みたいな変なアジテート文しか載ってないが)。これを読んで改めてピンチョンの小説家としての上手さに圧倒されたのだった。「文章の良し悪しは、書き出しの3行で決まる」と誰かが言っていたと思うが、ピンチョンのはじめの3行はどの作品も素晴らしくカッコ良い。
デビュー作の『V.』にしてもそうだ。ノワール風の雰囲気をもってはじまり、「ミセス・バッフォーのいわゆる『チューチュー・タイム』(酒場にあるビールの蛇口にゴムの乳首がついていて、それに食いつくために水兵たちが大暴れする)」まで怒涛に流れていく冒頭部分の疾走感が最高に素晴らしい。佐藤&小山太一によるこの新訳は、スピードが3割増しになってる感じがした。池澤・柴田・佐藤による鼎談でも語られているが、この作品を26歳で書いたピンチョンという人はスゴすぎる。
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