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藝大21 創造の杜「ヤニス・クセナキス 音の建築家」 @東京藝術大学奏楽堂




クセナキス、数学使って曲書いてた人!


クセナキス、戦争で片目を失った人!


(真心ブラザーズ/拝啓、クセナキス)



 存在しない歌詞の引用から書き出してみたが、クセナキスについて割とよく知られていることを並べてみると以上のようになるだろう。ただし、作曲をどのように行ったか、という背景は音から読み取れるわけではないので「ポワソン分布が……」、「フィボナッチ数が……」云々言われても「So what?」である。正直な話「数学を使って作曲をする → 評価される」という判断は私にはよくわからない。本日のコンサートで配布された詳細な作品解説によれば、彼が確率理論を用いて作曲する目的とは「『作品創造の過程にとって最小限必要となる論理上の制限は何か』という問いへの答え」であるらしい。クセナキスが残した論考に「メタ音楽に向けて」というものがあるらしいが(未読)、この解答を見る限りは確かに彼の音楽はメタ音楽、音楽を考えるための音楽、と言って良いのかもしれない。とりあえず、単に複雑で、何が鳴っているのかもよくわからない作品を書いてた人ではなかったようである。本日の演奏作品は以下のとおり。



《ピソプラクタ》


《イオルコス》(日本初演)


《メタスタシス》


《シルモス》――弦楽合奏のための


《デンマーシャイン》(日本初演)



 演奏は藝大フィルハーモニア。指揮はジョルト・ナジがアイスランドの火山噴火の影響で来日できなくなったので、ダグラス・ボストックという人に変更になっていた。開演前に主催者側からそれについての説明があったが、正直こんな作品の指揮を急遽依頼されたらビビるだろうな……と思った。ただ、振り間違っていても、ほとんどの人は気がつかないと思うが。プログラムにある日本初演作品は晩年の作品、そのほかは初期の作品。《メタスタシス》から《シルモス》の間に休憩が入ったが、そこでワインを一杯飲んだら、後半爆睡してしまってね……。後半はなんかぼんやりとした記憶の中で、コンバスの人が必死でグリッサンドをしてたり、リッチなクラスターが鳴っていたり、という印象しかない。前半はしっかり聴いた。





 まず《ピソプラクタ》。これはCDでも持っていて「なんかパタパタ言ってる曲」ということを覚えていたのだが、今回生で聴いて弦楽器群が楽器の胴をパタパタ叩いている音だということを確認した。すごかったですよ、この光景は……。楽器編成は弦楽オーケストラとシロフォン、ウッドブロック、2管のトロンボーン。弦楽はところどころ細かく分割されていて、いろんなところからパタパタ音が聴こえてくる瞬間がある。こういうの「あ、生で聴けて良かったな」って単純に思えるから良い。





 次に日本初演の《イオルコス》。これはスゴかった。現代音楽版サウンド・オブ・ウォール、っつーか、超ブ厚い音の塊に圧倒されまくりのリッチな作品だった。おそらく録音してもマイクに収まりきらないであろう超高密度。弦楽器がひたすらクラスターを奏でているのに対して、チューバがベースっぽいフレーズをひたすら吹きまくる(チューバと一緒にほかの楽器が動いていたかもしれないが、ぜんぜん聴こえない)。クセナキスの後期作品はリズムや和声の面でもポップなものがあった気がするんだけど、これもひとつのポップ化なのかも。もっと良いホールで、もっと良い席で聴きたかった。





 《メタスタシス》はクセナキスの出世作となった作品。《ピソプラクタ》もこの作品も、1950年代半ばの作品なんだけれど、この時期でこの極北感、いくところまで行ってしまった感っていうのはすげぇなぁ、と驚いたりする。これに比べたらブーレーズにもシュトックハウゼンにもノーノにも、詩的でロマン派な感じがするもんね……(あくまで個人的な印象の話だけれど)。クセナキスって私にとって「なんだかよくわからないけど、エラいことになっている曲」を書く人代表ってわけで、ある意味《メタスタシス》はその記念碑的な作品である、と思った。





 演奏の全体的な感想としては(指揮者の変更の影響があったのかもしれないけれど)、ちょっと整理されていない部分があったような気がする。一回の演奏会がまるごと全部クセナキスっていう演るほうも、やっぱりツラいのだろうなぁ。平均的な演奏で5曲聴くよりは、1曲でスゴい演奏が聴けたほうが嬉しい、っていうのも感じた。ただ、まるごと全部クセナキス、っていうお祭り感みたいなのは楽しい。どっちもどっちだ。まるごと全部シュトックハウゼン、とかあったら是が非でも行くだろうし。





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