『地獄の黙示録』のカーツ大佐も、南方熊楠も、柳田国男も『金枝篇』という本を愛読していた。これは世界中の未開社会における神話・呪術の研究書である。最終的には全十三巻に及ぶ超大作となったこの書物の作者がジェイムズ・ジョージ・フレイザーというスコットランド生まれの男。最近になってちくま学芸文庫に収録された『火の起原の神話』は、この人の晩年の著作だが、本の内容はタイトルどおり「世界中の民族に伝わっていた『火の起原の神話』」を収集し、考察を加えたものとなっている。収集された神話は、地域によってヴォリュームに差が大きいが、地球全体を網羅する。極めてマニアックとしか言いようがないが、なかなか興味深い本だった。
思考をひっくり返すような考察があるわけではないのだが(というかフレイザーの考察は極めて短いのだ)、淡々と紹介される無数の神話に含まれた、まったり感が楽しい。たとえば、ポリネシアのあたりでは、人類に火をもたらす動物として犬が活躍している神話が多い。これがちっとも英雄的な犬ではなく、せっかくもらった火を途中で何度も消してしまい、そのたびに火をもらいに戻ったりを繰り返す、適度なアホ犬なのである。こういったアホ犬が、さまざまな部族の神話の中で活躍している、という事実を知ると「人類もなかなか悪くないんじゃないか」と思えてくる。
神話の中では当然、火がなかった頃の人々の暮らしも語られている。当然そこでは「調理」という概念がない。食事はみんな生のままか、辛うじて日干しにして食べていた。想像できないぐらい嫌な食生活であるが(生のカタツムリを食ったりしてんだよ……)、神話のなかでも「昔は火がなくて、大変な暮らしでねぇ……」と苦労が語られているところが良い。なかには、火のない人間界に嫁入りした女神様が「こんな生のモノしか食べられない世の中はいやだ! 生の食事を続けるなら死んでやる!」と父親の神様にダダをこねることによって、人間界にも火がもたらされる話とかがある。私は、火がある世の中に生まれて良かった……と切に思うのであった。
慥かこの本で言はれるのは、火の神話は男がペニスを女のワギナに入れて擦るのが原型だといふ話で誰でも思ひつくやうな話で面白くない。
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