Alexandre Tharaud plays Scarlatti

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Scarlatti: Sonatas
Scarlatti: Sonatas
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Alexandre Tharaud
EMI France (2011-01-24)
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 昔は池袋のメトロポリタンに入っているHMVや新宿のFlags内のタワレコみたいな大きなレコード店のクラシック・コーナーに足を運ぶと「ああ、今日はどれを買って帰れば良いのだろう……!(あれもこれも欲しいよ……!)」と迷いながらCDを選んだものだけれど、最近はそうでもない。自分の趣味がもうできあがってしまっているのだ。学生のときのように「あれもこれも欲しい」という風にならず「あ、これは買っておこう」と自然に・適切に選べるようになる。けれども、最近はこれとは別な意味で迷う場面も発生している。それが「欲しいのが全然ないや、どうしよう……」という場面だ。





 大きなレコード店の試聴機に入っているのが半世紀以上前の演奏家のライヴ音源ばかりだったり、レコード会社が売り出している新人の、(ヴァイオリニストなら)チャイコフスキーだ、メンデルスゾーンだ、ブラームスだ……、(ピアニストなら)チャイコフスキーだ、《皇帝》だ、ショパンだ……などと決まりきった定番曲ばかりだったりするのを見かけると「これって本当に必要なんだろうか? 出してなくても誰も困らなくない?」と思ってしまい(発掘音源なんかとくにそう)、途方にくれることになる。クラシック・コーナーってこんなにマニア向けのCDばかりだったかな? とてもついていけないよ、と何も買わずに帰ることもある。だいたいあの曲もこの曲も持ってるし、よっぽど好きな演奏家か、あるいはよっぽど評判が良い録音か、または、とても美人な演奏家でもない限り、食指が動かない。





 そういうわけで手っ取り早く自分にとって目新しいものを探す、となると古楽とか現代音楽とかの棚の前に行くことになる。そこは自分が知らないものばっかり置いてあるコーナーだからだ。前置きが長くなったけれど、アレクサンドル・タローが演奏するスカルラッティのソナタ集もそういう状況で手に入れた。全然知らないピアニストだったし、スカルラッティも名前しか知らなかったが、新しいものに《出会う》とはそういうことなのだろう。ろくでもないモノばかり試聴機に入ってると「こんな店、さっさとつぶれろ!」と呪詛の言葉も投げかけたくなるが、実店舗にはこうした魅力もある。





 アレクサンドル・タローは1968年生まれのフランス人ピアニスト、とのこと(ネット上では『フランスの俊英』という紹介をみかけたが、40歳を超えた人間に対して俊英はいかがなものだろうか……と思わなくもない)。バッハやクープラン、ラモーの録音もおこなっている一方で、ロマン派や近現代の作品も手広く抑えるレパートリーが広い演奏家のようだ。スカルラッティには555曲ものハープシコードのためのソナタがあると言われているが、この録音ではそのなかから18曲を選んでいる。その選曲は、スペイン民謡に影響を受けたと思われるものや、宮廷舞曲的なもの、技巧的なもの……などなど、ヴァラエティに富んだものだ。通して聴いていくと、こうした楽曲の性格の弾き分けが丁寧で好感が持てる。冒頭のKk.239は硬めのタッチでスマートに弾いているが、次のKk.208での柔らかいタッチとのギャップにハッとする――ルバートを長めにとり、穏かに歌いこんでいく様にこのピアニストの品の良さを感じる。「Andante e cantabile」の模範的な例とはこういうことなのかもしれない。






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(アレクサンドル・タローが本作について語る映像)





 それにしてもこの音楽の居心地の良さは素晴らしいなあ、と思った。前述の通り、スカルラッティの作品を意識して聴くのはこれが初めてなのだが、なにかこの日常に上手い具合にハマッてくれる音の感覚は、どこか無印良品的なものを錯覚させる(っつーか、これ、店内で流れてたんじゃないのか?! と思うほどに)。1685年、奇しくも彼はJ.S.バッハと同じ年に生まれているのだけれど、まるで性格が違う風に感じてしまう――スカルラッティの作品の愛らしさを聴いていると、たしかにバッハの作品は「小難しいもの」とみなされたのにも納得がいく。昔のヨーロッパの貴族はやることがなかったから憂鬱で、その気持ちを慰めるために芸術を求めた……なんていう話を聞いたことがあるけれど、こうした音楽なら適切だったのかもしれない。そうした音楽が、やることがたくさんあって仕方がない現代の人の琴線に触れる、というのもなんだか不思議な話に思える。熱心な古楽ファンの方は「モダン・ピアノによるスカルラッティなんて邪道!」とおっしゃるかもませんが、良いですよ、コレ。





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