歌は世につれ世は歌につれ。世界を揺るがした事件の裏では、必ず歌が歌われていた。湾岸戦争からソビエト連邦崩壊まで激動の1991年に、世界各地で密かに歌われた曲や大流行した楽曲を完全網羅。これは、まったく新しい音楽評論集だ。とあるが、これはある意味、悪質な本であるとも言えよう。本のもとになっているのは雑誌『宝島』で90年〜92 年にいとうせいこうが連載していた「世界の新譜」というコラム。その名の通り、いとうせいこうが聴いた世界のポップスをその訳詞とともに解説する、という体裁をとるのだが、実際には時事問題と絡めてねつ造された楽曲について語った文章である。本のどこにもネタばらしがない徹底ぶりは、まるでボルヘスか、スタニスワフ・レムか、といった感はあるのだが、さすがに日本語ヒップホップのパイオニア、風刺の効いた捏造歌詞は雑誌掲載から20年以上経った今読むと良い感じに寝かせておきました、というイキフンがあって良い。ビジュアルショック、スピードショック、サウンドショック!!!
まだ東西ドイツが統一されたり、ソ連が崩壊したり、湾岸戦争があったり、即位の礼があったり、ユーゴスラヴィアで紛争があったり、扱われる話のデカさが「うお〜い、それ教科書に載ってた話だよ!」と思わず感じ入ってしまう。この本では扱われないけれども、その後には阪神の方で大きな地震があったり、オウム真理教の事件があったりしていることを考えれば、時代が21世紀に突入し、ゼロ年代を終え、テン年代ですか、今、この瞬間、激動の時代と言われているのかも知れないけれど「時代」はいつだって激動しているのだよね……。中島みゆきか、ボブ・ディランかよ、って感じですけども。
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