Steve Jobs
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Walter Isaacson
Simon & Schuster (2011-10-24)
売り上げランキング: 122
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スティーヴ・ジョブズが亡くなって、半年が過ぎ、その名声と伝説は日に日に変な方向に向かいつつある昨今でございます。女性ファッション誌『VoCE』6月号には「もしスティーヴ・ジョブズがダイエット法を考えたら “もしジョブ”ダイエット」なる特集が組まれているなど狂気の沙汰が繰り広げられているのですから、私など「これが噂の『現実歪曲フィールド』ですか」と思わざるを得ません。しかし、これは疑いもない現実なのです。
以上は極端な例でしたが、こうした「変な方向」を死後のジョブズの聖人化と呼べましょう。その現象にはすでに反論が寄せられております。スティーヴ・ジョブズはヒッピーあがりのろくでなしであり、各種自己啓発本に取り上げられるような真っ当な人物ではない。にも関わらず、聖人化が止まないのは誰もスティーヴ・ジョブズを知らないか。それとも、このウォルター・アイザックソンによる伝記が分厚すぎて誰にも読まれていないか。原著では600ページ弱の大ヴォリュームですから、買ったのに投げている人も多そう(邦訳は上下巻の分冊ですが、原著の暴力的サイズを考えれば賢明な判断かと)。本書を読めば、誰もがジョブズがホントのろくでなしであることが理解できるはずなのに……。
伝記作者、ウォルター・アイザックソンによれば、スティーヴ・ジョブズの複雑な人間性は「養子に出された/養子に選ばれた」=「捨てられていて、かつ、選ばれている」というアンビヴァレンツのなかで育まれた、ということです。これではまるで『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジくんのようなのですが、自分が特別であるからなんでも好きなことをやってやるし、都合の悪いものは無視するし、時にはメソメソと母性に泣きつくこともある……という行動は、惣流・アスカ・ラングレーのほうがしっくりくる。気に食わなかったら即座に罵倒するし、その攻撃性はグレートな製品とイノヴェーションのお題目の前で正当化される。こんな人をロール・モデルにしている意識の高い会社員や学生がいたら、煙たがられて村八分にされること請け合いです。
部下や友人を罵倒しながら無茶ぶりベースでの製品作りは、ワンパターンと言ってもよく、どうしてその方法で成功できたのかはなんとなくうやむや。「ホントに製品が偉大だったから成功したの?」と問いかけたくもなる。たしかにアップルの製品は良い製品だし、一度これに慣れちゃうとコレ以外には戻れない……ような中毒性や魔力がある。でも、近年のアップルの大躍進については、単に製品が手頃になって、みんながちょっと奮発すればMacBook Proなりなんなりを買えるようになったからじゃないの? と思わなくもない。もしかして、こんなろくでなしが成功できた、ということ自体が聖人化されてしかるべき現象なのでしょうか。
とはいえ「もう君はいないのか……」としんみりしてしまう本でした。暴君、天才、変人として語られる人物が、結婚20周年のサプライズ・パーティーで泣きながらスピーチをしたり、妻と出逢ったばかりの時にそのルーム・メイトに「彼女は俺のこと、どう思ってると思う?」と相談したり(そのとき既に億万長者で超有名人)、というような信じられないほどメロウなお話も面白い。そういう意外なエピソードが合間合間に挟まれてるので、読み続けられた気がします。英語もそんなに難しくないですし、英語の勉強ついでにはちょうど良かったです。
個人的に一番ツボだったのは、ジョブズの音楽の趣味についてのところで。彼のボブ・ディラン好きは有名ですが、その他にもビートルズやグレン・グールド、ヨーヨー・マ、U2とかを聴いてたんだって。このラインナップ、まるで『男の隠れ家』の愛読者層みたいじゃないですか?
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