中原昌也、4年ぶりの小説集、といっても新しい試みだとか新境地があるわけではなく、中身はいつもの、物語的な展開がまったくないブツ切れの文章の連続のあいまに、なんの脈絡もなく不気味というかグロテスクというか、とにかくそんな風に名付けるしかない想像力の産物が蠢くだけの代物と「書きたくない」とか「嫌な世の中だ」とか言う小言だけなのであり、そうであるがゆえに最高だった。本作のために描き下ろされたイラストが、これまた本文とまったく関係なく挿入されるのも良い。もはやこの芸風は芸能の域に達している。この作家が、理不尽な世の中に対して、理不尽な呪詛めいた言葉を放っているのを見ると不思議と道理にかなったものにも思えるし(理不尽なものに対する正攻法的な反応、というか)、さまざまな納得がいかない感情や諦めと言ったものをこの作家ほど上手く代弁してくれる人もいない。とにかく、なんだか嫌だな、と思うことが多い世の中である。その嫌さを誰よりも的確な言葉で表現してくれる、自分の代わりに怒り散らしてくれているようである。素晴らしいですよ、ホントに……。
収録作では「人間の顔にしか見えないものが」で展開される奇妙な自己啓発的長口上が出色の出来。また、収録作のなかでまったく同じ表現が使い回されたり、設定を使い回していたりするのが、サンプリング技法のようで斬新。それぞれ発表された時期が違っているため、それぞれの初出時にはほとんど誰にも「これ使い回しじゃん」と気づかないだろうが、短編集にまとめられると意外な効果を発揮しているようである。意図的なのか、たまたまなのかは実際よく分からないが、全部問題作で全部怪作。
コメント
コメントを投稿