村上春樹 『色彩を持たない多埼つくると、彼の巡礼の年』

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹
文藝春秋 (2013-04-12)
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村上春樹の最新作を読む。『1Q84』の続きがあるんじゃないか、と期待していたところに、全然違う新作が投げ込まれたのは、えっ、と思ったが、本作もまた実に「村上春樹の小説だなあ」という作品で、結局この人はある時期から基本的には同じ話しか書いていない、という思いを新たにした。過去の出来事で傷かなにかをもっていて、凡庸だがなにかひとつだけ特殊な才能のようなものをもった男性が、巫女のような女性に導かれて、過去の出来事で残ったなにかを、どうにかする。これが村上春樹の根本的なラインである。

そんななかで本作がこれまでの作品とどう違うか、というと、かなり明確に、これまでに以上に現代とのつながりを持ち、そしてそれが社会批評としての機能を持つ描写と読めることだろうか。この感触は『アフターダーク』が出版された際のものに近いけれど、今度はもっとハッキリしている。Google、Facebookというアイテムの登場はもちろんのこと、「意識の高い人間」を相手にした虚業的なセミナーに対して、登場人物が批判的な言葉を投げかける点は、これは結構、作者の声に近いものがあるのでは、と感じてしまったし、それはちょっと新鮮な点でもあった。

また、前述の主人公の凡庸さについて、主人公自身が自覚的であり、また批判的である点、さらにその凡庸であるという自覚を他者からハッキリと否定され、魅力的な人物であるという承認を受けるところも、ちょっと新鮮。

読んでいて面白かったし、あっという間に読ませる魔力は健在だったけれど、しかしながら、ここまで「え、あの話ってなんだったの?」、「あの人、結局どうなったの?」と未解決な問題を置きっぱなしにしながらピリオドを打つ作品がこれまでの村上春樹の作品にあっただろうか……。そうした解決されてない伏線(と普通の人は考えるであろうポイント)を、物語に象徴的な意味を与えるサムシングだ、と言ってしまえば、もはやなんでもアリだよな……とか思う。

正直、よくわかんない話ですよね。でも、それがすごくたくさんの人に読まれている。わたし自身は、村上春樹作品における「問題解決」が、問題の完全な修復ではなく、傷跡が残っている感じで生きていくしかないじゃん、というところは、とても身につまされるものがあり、好ましいと思うところなんだけれど、他の人はどんな風にこれを読むんだろうというのが気になる本でした。

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