Too Much to Know: Managing Scholarly Information before the Modern Age
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Ann M. Blair
Yale University Press
売り上げランキング: 48,365
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同じ問題がある、と言ってももちろん、昔はコンピューターなどなかったのだから今とは違った問題解決策がはかられることとなる。とはいえ、道具が違うだけでやっている内容は今も昔も根本的には変わっていない。その情報管理の基本を本書は「store, sort, select, summarize(保存、整列、選択、要約)」の「文書管理の4つのS」でまとめている。Googleがおこなっていることだって基本的にはこのメソッド通りだ。では、コンピューターがなかった時代の「文書管理の4つのS」って? これが本書のメイン・テーマとなる。本書の前半部分は主に技術的な側面が扱われる。たとえば、今ではありふれすぎてあるのが当然、だが、いずれ絶滅するかもしれないという「紙」というメディア、これだってヨーロッパで一般的になりはじまるのは、15世紀の活版印刷機の発明以降なのだから歴史的にみたら新しいメディアだと言える。紙以前にヨーロッパの知識人はなにを使って記録してきたのかのか、そして紙の登場以降に、どんな風に記録方法が変わっていったのか。勉強したことをノートにとる。これも今では当たり前のことだけれど、ノートを取ることが一般的でなかった時代に思いを馳せつつ、本書を読み進めるのは想像力を刺激する悦びがある。
後半部分は大量に記録されたものをどう整理されていったかにフォーカスが当てられている(大量な記録の動機を本書は中世において伝えられずに失われた書物が多々でてきたことがトラウマになっていたと置くのも面白い)。活版印刷の発明以降、ヨーロッパでは「リファレンス本」が制作されるようになってくる。リファレンス本は、大量の情報をうまくまとめ、役立つ情報に人々がアクセスしやすくなる知的に実用的な書物である。それゆえにこのジャンルは出版業者から有力な事業として見なされ、さまざまなものが出版された。そのなかにはラテン語の辞書だったり、過去の有名な著述家の引用集や古今東西の名鑑のようなものまで、さまざまなものがある。かつては図書館の本も自由にアクセスできなかったし(貴重な書物が盗難されたり、切り抜かれたりしないよう、現代の図書館のような閲覧スペースは昔の図書館にはなかったのだ)、そもそも本自体が高価なものだったので、リファレンス本だけを頼りに勉強する人も少なくなかったという。リファレンス本の制作はそういう意味で、公共的な善をもたらすものだった。手作業による編集はDTP時代の編集者には想像もつかないであろう労苦を伴ったが、なかにはその公共的な善をモチベーションにして貧しい暮らしをしながらもリファレンス本を作った人たちなんかもいたりと、リファレンス本制作にはプロジェクトXばりのドラマを感じるのだった。
英文はかなり平易でリーダブル。歴史に興味がある人だけでなく、情報技術を勉強している学生さんにもオススメしたい一冊です。
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