ヴァレリー・アファナシエフ
SMJ (2015-05-27)
売り上げランキング: 43
ここ数年クラシックの新譜ってほとんど買ってないのだが、ヴァレリー・アファナシエフの新譜がでるというので聴いた。アファナシエフのベートーヴェンはこれまでにも聴いたことがあったが、ここにきて《悲愴》・《月光》・《熱情》という「巨人・大鵬・卵焼き」的な(自分で書いていてちょっと違う気がするが)大メジャー曲の録音である。その解釈はいつもの通り、ゲテモノ的とも言うべき、極端に遅いテンポ設定のもので、安心のクオリティなのだが、大変面白く聴いた。動力が完全にぶっ壊れたオルゴール、というか、まるで不整脈みたいなルバートはもしかしたら過去最高レヴェルかもしれない。《熱情》の冒頭部なんかちょっとふざけているんじゃないのか、とツッコミたくなるほどの間の取り方をしている。けれども不思議としつこくない。改めて、そのめちゃくちゃに重いんだけれども、しつこくない(美味い東京とんこつラーメンみたいな表現だ……)演奏の妙に感心させられた。
ふと思うのだが、この音楽の作り方って、極端ではあるけれど19世紀末や20世紀前半に活躍した演奏家たちの再現に近いようにも思う。フルトヴェングラーとかメンゲルベルクとか。それから今回の録音には(録音の仕方にも関係していると思うのだが)、アファナシエフの演奏にロシア・ピアニズムの遺伝子を明確に感じられる部分があると思った。リヒテルだとかギレリスだとかの遺伝子。とくに鍵盤を強打しながらも、濁りのない響きはギレリスのそれを彷彿とさせる。それがもっとも感じられるのは、《月光》のプレスト・アジタートか。
コメント
コメントを投稿