カルロス・フエンテス 『アウラ・純な魂』

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フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)
カルロス フエンテス
岩波書店
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GWということで積ん読を消化するのに時間を使っている。フエンテスの短編集を買ったのは奥付で確認する限り、2009年のことらしい。5年以上寝かしている間に、フエンテスも鬼籍に入ってしまった(それゆえ、わたしの持っている単行本には彼の没年が入っていない)。フエンテスはこれまでに『脱皮』『遠い家族』『老いぼれグリンゴ』という長編を読んできている。この人は、メキシコ国籍を持ちながら、父親が外交官だったおかげで世界各地を転々としながら育った。そういうわけで、フエンテスはメキシコ人なのに、メキシコ人じゃない、というこの引き裂かれてたアイデンティティを抱えていた。だから「メキシコ人とは!?」みたいなことにこだわって書いている作家だった(このへんは、ガルシア=マルケスとはかなり違っている。ガルシア=マルケスは代表的な長編作品を一本も故郷のコロンビアで書いてないし、コロンビアの作家という語られ方よりも、南米の作家として語られる)。

この短編集はそういうアイデンティティ云々のめんどくさい感じがなく、グイグイと引っ張る話の作りの上手さが結晶化されたような珠玉の本であるように思った。面白くて、一気に読んでしまえる。怪しくて、妖しいモダン・ホラーというか、この感じなにかに似ているな、と思ったのだが、荒木飛呂彦の描く怖さに通ずるものがある。6本の短編・中編が収録されているがそのうち、3本が密室のなかでなにかが起こっている。そういう話であり、いかにも岸辺露伴が巻き込まれそうなストーリーが展開されているように思った。あとはルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』だとか(実際、フエンテスとブニュエルのあいだには交流があったのだが)。ちゃんとオチがゾワゾワッとくる感じがあって表題作のひとつ「アウラ」なんか、スゴいね……と思う。

ちょっと異色なのが「最後の恋」という作品で、スマートな通俗小説みたいな話なのだが、屈折した感じ、ネチネチ具合が最高に良い。主人公は金持ちのジジイで、ヴァカンスをリゾート地で過ごすのに、金出して買った愛人を連れてきている。この時点でわたしは『MADURO』が言うところの「ヤンジー」を思い浮かべてしまい楽しくなってしまう。で、このジジイが若くて美しい愛人と一緒にヨット遊びに出かけると、そのヨットに若くて美しい青年が乗り合わせてくる。ジジイは、自分の愛人とイチャイチャしはじめるのを見ながら猛烈に自分の老いを実感してしまう……というそれだけの話なんだけれども、繰り返すようにフエンテスのネチネチした心理描写がとても良い。
その時になれば、暗闇の中で肉体は消え失せてしまい、若い身体と比べられることもないだろう。夜になれば、女を扱い慣れたこの手で彼女をゆっくり時間をかけてかわいがってやり、まだ経験したことのないような喜びを味わわせてやる。
こういう独白が最高だし、ヤンジーそのものって感じだ。この作品は『アルテミオ・クルスの死』(復刊しないんでしょうか……)という1962年に発表された長編からの抜粋らしいのだが50年以上早かった。

MADURO(マデュロ) 2015年 06 月号 [雑誌]

セブン&アイ出版 (2015-04-24)

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