『街の人生』は、著者(とその教え子)がおこなったインタヴューの記録だ。『断片なものの社会学』でも、さまざまな語りが登場するけれど、もっと生の記録である。伝わらない喩えをもちいるならば、マイルス・デイヴィスの『The Complete On The Corner Sessions』みたいな感じ(もちろん、書籍化にあたっての編集はおこなわれているけれど)。外国人のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、高齢のホームレスの人たちによる解釈も意味づけもない語りが収録されている。
このインタヴュイーのラインナップに人は「特殊な人生」を想像するだろう。もちろん(わたしも含めての)マジョリティが「自分は『普通の人間』です」という顔をして生活している人生と比べれば、そういう「波乱万丈な」という感想がでてきてもおかしくない。けれども、当事者にとっては、それが「普通の人生」でしかない。自分の人生しか生きられない以上、そういうものである。だからこそ、読み手であるわたしは、わたしには生きられない別の人生を、驚異として目の当たりにしてしまう。特殊な人生ではなく、別な人生としての驚異が本書にはある。
いや、本当に面白くて、今回も泣き笑いをしてしまった。とくにニューハーフのりかさんのパートは、ニューハーフパブで働いているという職業柄か、滑らかな語りが読んでいてすごく気持ち良い。すごく話に引き込まれて何度も「えー、そんなんあるんですか。全然わかんない!(から、もっともっと話が聞きたい)」という気持ちになってしまう。ただ単に他人の面白がっているだけ、と言えば、そうとも言える。しかし、こうしてわからない人たちと生活しているのが、社会なのだ、という感慨深い気持ちにもなるんだよ。
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