音楽を聴きながら部屋でぼんやり読書をしていたところ、iTunesのシャッフル機能があまり熱心に聴いた覚えのない曲を再生しはじめた。冒頭は重い溜息のようなピアノ。それに応答するかのようにヴァイオリンが鳴り、誰かが書いたヴァイオリン・ソナタだということが分かる。でも正確誰かが特定できない。「この重苦しい感じ、ショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタはこんなだったかな……」と思って本から顔をあげ、パソコンの画面に目を向けて曲名を確認するとセルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番だった。
ピアノの低音を強調したフレーズが繰り返され、その上でヴァイオリンが静かに変化していく第1楽章が終わると、打って変わって狂ったように騒がしい第2楽章がやってくる。4楽章構成の作品は、第3楽章でまた緩やかなテンポになり、第4楽章はまた速く(テンポは“Allegrissimo”)。緩急のカウンターパンチのえげつなさに「この躁鬱っぽい展開はプロコフィエフならではだな……」と思う反面、印象派風の美しいフレーズの数々とギクシャクとしたリズムが混合するところには分裂的なものを感じる。
このつかみどころのなさにプロコフィエフがショスタコーヴィチのように熱狂的なファンを掴めない理由がある気がする。美しいメロディを書いた数なら、おそらくプロコフィエフの方が勝っていただろうに。あまりに天才過ぎるばかり、戦略的にそれを用いることに関してはあまり上手くなかった、みたいなところがある。
Dmitry Yablonsky Bela Bartok Antonio Bazzini Ernest Chausson Claude Debussy Grigoras Dinicu Heinrich Wilhelm Ernst Edouard Lalo Nikolay Medtner Wolfgang Amadeus Mozart
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聴いていたのはワディム・レーピンの演奏(紹介した動画はダヴィッド・オイストラフとスヴャトスラフ・リヒテル。このスカスカした録音の貧しさがソ連っぽくて堪らないですね)。レーピンはオイストラフの正統的継承者として、ロシア出身のヴァイオリン奏者で私が最も評価する演奏家なのだけれども、落ち着いた素晴らしい演奏を聴かせてくれる。テクニックも抜群で、重音を弾くときの豊かな音色や弱音の細やかさにはうっとりしてしまう。伴奏のボリス・ベレゾフスキーのピアノも良い。ただ、ここまで美しく演奏されるとプロコフィエフの「天才過ぎて頭がおかしくなってる感じ」というのは抑制されてしまうかもしれないが。
なお、この10枚組ボックスには、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番も収録されており、こちらも素晴らしい演奏。ケント・ナガノ/ハレ管弦楽団の低音部を響かせる伴奏(モリモリしている感じ、と個人的に名付けている)が、暴れまわる独奏ヴァイオリンをしっかりと支えている。
庄司紗矢香 ゴラン(イタマール) プロコフィエフ ショスタコーヴィチ ツィガーノフ
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他には庄司紗矢香の演奏なども良い。レーピンと似たような演奏なのは、どちらもザッハール・ブロン門下生だからだろうか。
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