続けて2008年に読んだ本についても振り返ってみる(これは新刊とかを問わず)。自分のブログの過去ログを探してみたら、今年は新年早々アドルノの『否定弁証法講義』から読み始めたみたいである。それ以降、アドルノについての本を読んでいないので、今年は1アドルノということだ。この本については読書メモをものすごくたくさん残している*1が、なんか「仕事をしてると勉強のことなんか忘れちゃうよな……」と寂しく思った1年だった気がする。学生時代は結構マジメに勉強していたって人にしても皆、そんなものなんだろうね、きっと。
マルクス・マラソンは、今年中に完走できず。ちょうど折り返し地点で止まっている。あと武満徹の著作全集も2巻まで読んで止まっている*2。それからラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』も3巻まで*3読んで止まっている(これは続きが出ていないからだが)。そのうえ最近ダンテの『神曲』を読み始めてしまったから、来年に持ち越しのものが多すぎて大変な気もするが、読まなきゃいけない本があると意識できているうちはなんだか幸福のようにも思えるし、こんなご時世なので働けるだけで幸福、本が読めるだけで幸福、というようにポジティヴに考えていったら良いのかもしれない(気持ち悪いか)。
挑発する知―愛国とナショナリズムを問う (ちくま文庫)posted with amazlet at 08.12.13姜 尚中 宮台 真司
筑摩書房
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今年読んで大変勉強になったなぁと思ったのは、以上の2冊。社会的にも、個人的にも不可解で、ぞっとする事件が起こるにつれ、これらの本で読んだことを思い返した気がする。『経済学という教養』*4では「新自由主義じゃ誰も救われないし、『自己責任』論を振りかざす人間は、永遠に勝つことできない(しばらくは負けないかもしれないけれど、常に負けるかもしれないというリスクに脅かされ続ける)のではないか」と感じ、そこから生まれたしんどさが『挑発する知』*5で触れられた「怨念とテロリズムの関係性」に繋げて考えてしまう。すべてが社会のせいだ、とは言わないまでも、今年起きた一連の通り魔事件などはそういう風に「リスクを負うことを強要された主体の怨念が沸騰して爆発した結果だ」とか考えてしまう。自己責任論を振りかざして個人が負うリスクを増大させる、ということは「誰でも良かった」で殺されるリスクを論者が背負うことにつながるかもしれない、ということにそろそろ気付いても良いかもしれない。というか、そういうことを言う左翼の政治家がいても良いと思うのに、誰も言わない(日本の左翼はもっと賢くならなきゃダメじゃないのか)。
姜尚中が一般的なところでも大ブレイクしたけれど、それらの「自己啓発っぽい新書ベストセラー」には一冊も手をつけていない。『挑発する知』(これは2003年に行われた対談シリーズを本にしたものである)のなかで「そろそろまた勉強に専念したい。じゃないと自分が枯渇する」という主旨の発言を姜先生は言っているのだが、今年のブレイクはその語の勉強の結果なのか。果たしてこの方向性で良いのか、と思わなくもない。養老孟司にせよ、茂木健一郎にせよ、姜先生にせよ、なぜ自己啓発っぽい方向性に流れてしまうのか。なぜそういった本を書かせようとするのか。これら(専門知の自己啓発的利用……とでも言えるかもしれない)は大きな疑問である。
話が大幅にそれたので本の話に戻す。小説はなぜかポーランド生まれの作家、ブルーノ・シュルツ*6とヴィトルド・ゴンブロヴィッチ*7が個人的な大ヒット。他にも悪夢のような幻想小説で、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ*8の本を2冊読んだ。なんか悪夢のような現実が起こるたびに、逃避する思いでこれらの小説にハマッていた気がするのだが、悪夢っぽい現実から悪夢っぽい幻想へと逃げ込む自分の心理がよくわからないでいる。悪夢が悪夢で浄化される。もしかしたらホメオパス(同種療法)的な作用がこれらの小説にはあるのかもしれない。これがもし、スピリチュアルな方向へ逃げ込むのだとしたら、もっと救いがあるのではないか……。
しかしながら、今年読んだ本で最もインパクトがあった本は小説でも思想関係の本でもなくこちらの『クロールがきれいに泳げるようになる!』である。夏ぐらいから水泳を始めたんだけれど、この本に書いてあることを実践してたら連続して泳げる距離が飛躍的に伸びた。そして、ジムの営業時間終了間際に自分以外に利用者がいなくなったプールで黙々と25メートルを往復し続ける快感を知った。あと広背筋と大胸筋と三角筋がカッコ良いことになってきた(彼女以外に見せる人がいなくて残念だ……!)。
*1:テオドール・アドルノ『否定弁証法講義』(第10回講義メモ) - 「石版!」
*2:武満徹『武満徹著作集(1)』 - 「石版!」、武満徹『武満徹著作集(2)』 - 「石版!」
*3:フランソワ・ラブレー『ガルガンチュア』(ガルガンチュアとパンタグリュエル) - 「石版!」、フランソワ・ラブレー『パンタグリュエル』(ガルガンチュアとパンタグリュエル) - 「石版!」、フランソワ・ラブレー『第三の書』(ガルガンチュアとパンタグリュエル) - 「石版!」
*5:姜尚中・宮台真司『挑発する知――愛国とナショナリズムを問う』 - 「石版!」
*6:ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』(工藤幸雄訳) - 「石版!」、ブルーノ・シュルツ『クレプシドラ・サナトリウム』(工藤幸雄訳) - 「石版!」、ブルーノ・シュルツ『シュルツ全小説』 - 「石版!」
*7:ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『コスモス』(工藤幸雄訳) - 「石版!」、ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『トランス=アトランティック』(西成彦訳) - 「石版!」、ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『フェルディドゥルケ』 - 「石版!」
*8:アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『狼の太陽』 - 「石版!」、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『城の中のイギリス人』 - 「石版!」
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