トム・フォード監督作品『シングルマン』

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いやあ、これはスゴい映画なんじゃないでしょうか。映画を観るまで、トム・フォードというデザイナーの名前は軽く耳にしたことはあっても、グッチだのイヴ・サンローランだのを手がけていた大変な人物であったことは改めて調べて知った、というほどのテイタラクでしたけれども、なんと言いましょうか、例えば、音楽PV出身の映画監督の映像センスが3倍ぐらいファッショナブル、かつスタイリッシュになって冒頭からガチガチに決まりまくった絵が展開されるのに痺れました。主人公の心象が画面の色合いによって表現されるのは露骨だったかもしれませんが、とても良い効果だったと思えました。私は映画批評などチェックしませんから、この作品がどのように評価されたかわかりません。単なる予想に過ぎませんが、おそらく映画批評の面々にも「映画業界生え抜き至上主義」のようなものがあり「テレビ出身の人」や「PV出身の人」は《ホンモノ》ではない、といった扱いがされているむきがあるのでは、と想像してしまい、本作はいかなるものであったのだろうか、といったところが余計に気になるわけですが、ここはあえて特別調べたりせずに話を進めましょう。





お話は事故でパートナーを失ったゲイの大学教授が失意のうちに、何を思うのか、といったところ。同性愛者が登場した時点で本作品に(性)政治的なテーマがのっかってきてしまうわけですが、果たして物語上絶対的に必要なものだったかどうかはわかりません。別に大学教授がヘテロ・セクシャルで失った恋人も女性であったとしてもお話としては通用するように思われるのですが、そこはセクシャル・マイノリティであることによってパートナーと結ばれることの価値が変わってくる、マイノリティであるがゆえに、その関係性の経済的価値が高まり、それによって物語的必然が生まれる、とも考えられる。物語の中盤で、非常にセリフが饒舌になって、それまで言葉少なく映像と編集によって語られてきた物語のスピードがダレそうになる部分があるのですが、そこではまるでこうした価値を理解していない他者が表れます。その他者は主人公に対して「あなたの同性愛は《本当の愛》の代替だったのでは?」と無理解な問いを投げかける。これは本当にヒドい質問だと思いますし、ものすごく痛い表現だと思います。





物語の舞台は60年代のキューバ危機の最中。この時代が選択されたのは、衣装に関連したファッショナブルな舞台装置としてだけではなく(ジュリアン・ムーアのドレスと髪型はマンガのような60's感)、この表現を生み出すためのものだったのでは、とも勘ぐってしまいたくなります。おそらく現代において、こうした無理解を何の気もなく発するには、よっぽどな無知と無遠慮さがなければ不可能でしょう。同性愛が《倒錯》と見なされることの痛みがここに現れ、グサリ、とくる。そして、その痛みは今なお消え去ったものではない、過去の痛み、ではない。ですから、本作の(性)政治性は今なお有効である、と考えます。ただ少し気になるのは主人公の性の奔放さで。良い男と街で出会っていきなりナンパがはじまったりする。傷を負った心は新しい出会いによってしか埋め合わせられない、とも思わせられるのですが、そのシーンのあまりにセクシーなやりとりは好色さの表現にも映ります。このへんがちょっと複雑。タイトルにあるように登場人物はみんな孤独な人物であるのですが、孤独の終わり = 生の終わり、という風にも読めてしまう映画でした。





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