Hilary Hahn & Valentina Lisitsa/Ives: Four Sonatas:アメリカの実験音楽のパイオニアがアウトサイダー・ミュージックだったことを明かす楽曲群

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Four Sonatas
Four Sonatas
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チャールズ・アイヴズという作曲家については以前からこのブログで取り上げております。詳細は例のごとくWikipediaにおまかせするとして、ここではかいつまんだ形でご紹介しておきましょう。コネティカット州生まれのアイヴズは20世紀前半のアメリカで活動していた作曲家……といっても、彼は専業の作曲家ではなく、保険会社の副社長を勤めて社会的に成功を収め、余暇に楽曲を書いていた、という大変ユニークな経歴を持っています。彼は生涯に1900曲以上の作品を書いたと言われており、精力的な余暇活動な取り組みっぷりが伝わってくるのですが、演奏者の都合など考えずに好き勝手に書きまくっていたおかげで生きている間はほとんど楽壇から無視され、晩年になってようやく注目を浴びはじめることとなりました。今日においてはバーンスタインやティルソン=トーマスによる演奏でかなり知られた存在ですが、交響曲第4番の破天荒な響き、合唱まで動員した巨大さ、民謡や讃美歌の引用で織り成された複雑さに触れれば、その音楽のものすごさ、というか、ものすごいアウトサイダーっぷり(実際、楽壇的にはアウトサイダーだったわけですが)に動揺してしまうでしょう。しかも本人は楽壇からの評価を強く求めていた、というのだから面白い。アルバート・アイラーとオーネット・コールマンと美狂乱のギターの人の性格と社会性が混ざったような作曲家であった、と言ってみても良いかもしれない。正直な話、アイヴズとアイラーは「アメリカの音楽」を考えるうえで外してはならない音楽家だと思います。





かいつまんで、と言ったのに思いがけず長くなってしまいました。アメリカのヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの新譜はこのどう捉えて良いのかわからない、真面目にふざけているのではないか(笑いながら怒っている竹中直人のように)とも思えるアイヴズのヴァイオリン・ソナタを取り上げています。ハーンがアイヴズのソナタをコンサートのプログラムに組み込んでいるのはかなり前から聞いていて「いつ録音が出るのかな」と期待していたのがやっと出た、という感じ。ライナー・ノーツに彼女自身も綴っているのですが、3年ほど温めてきた楽曲群だったようです。アイヴズのヴァイオリン・ソナタの4曲はどれも1900年代~1910年代に書かれたものだそうですが、公衆の面前で演奏される機会がもたれたのはずっと後になってからだった、とのこと。第1番の冒頭から、ヒンデミットを彷彿とさせるゴツゴツとした響きが印象的なのですが、途中からいきなり民謡や賛美歌の引用が登場するなど驚きに満ちた楽曲です。日本人のリスナー的には第4番の最終楽章が最も衝撃的でしょうか、ここではビックカメラの曲でおなじみの賛美歌《まもなくかなたの》の旋律が初期のシェーンベルクのような調性感の希薄な和音をまといながら登場します。ほかにもラグタイム風のリズムが表れたりして意外性を突いてくる音楽です。






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(アルバム発売に伴うプロモーション動画)





ハーンのアイヴズ解釈については、意見を持てるほどこの楽曲を知っているわけではないので、おいておきましょう。今回のアルバムはいつものハーンの演奏に感じられる尖った硬質さはやや弱く、家庭的な響きを持った音楽のように聴こえました。この印象は録音の仕方もひとつのキーになっています。大きなホールで演奏されたものではなく、小ホールかもしくは中規模のスタジオっぽい音がするのですよね。気になって、ライナーノーツに記載されたニューヨークのクラブハウスについて調べてみると、民家のようなスタジオでした。上記のプロモーション動画の演奏風景もおそらくはこのスタジオで撮影されたものだと思います。スタジオ盤なのにライヴ盤みたいな録音で、NHK-FMのライヴ中継を聴いているような気分になってくる。嘘っぽい、スタジオで作った音がしない。これは本当に好みの世界のお話になりますけれど、個人的にはそうした嘘っぽい音が好きなので、がっつりこないのが寂しい部分もあります。けれども、ピアノとヴァイオリンが同時に演奏されているリアリティがすごくて面白かったです。





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