内田百閒 『ノラや』

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ノラや (中公文庫)
ノラや (中公文庫)
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内田 百けん
中央公論新社
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内田百閒と失踪した猫、そして入れ替わるようにして現れた猫との生活をつづった随筆集。わたしは猫を飼ったことがないし、実家で犬を飼っていたが大してかわいがりもせずにいた。それに対して、内田は自身を愛猫家とは認識していないにもかかわらず、猫のために涙を流す。自分のなかに共感できる要素はまるでないようだけれど、筆者の姿にじんとくるものはある。結局のところ、なにかを愛でる、という根本的な部分で通じてしまうのだろうか。あるいはなにかを失うということでもよい。これまで生活のなかに当然のようにあったものがなくなってしまったときの喪失感が、本書では百閒の滋味のある文章で捉えられている。それは特別に感情へと強く訴えかける文章ではない。むしろ、観察されたものを淡々と写すようである。そこにじんわりと染みてくるものがある。後日談的に語られる、失われたものを自然と弔うようにふるまう家族の様子まで読んでいると、なんだか、自分の祖父を数年前に亡くしてからのことと照らし合わせたくもなった。

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