スキップしてメイン コンテンツに移動

タラ・パーカー=ポープ 『夫婦ゲンカで男はなぜ黙るのか』

夫婦ゲンカで男はなぜ黙るのか
タラ・パーカー=ポープ
NHK出版
売り上げランキング: 171,106
著者はアメリカの健康情報ライターだそうで、夫婦関係に関する調査や実験の結果をもろもろまとめたもの。「◯◯大学の社会学者は〜と言っていて〜」だとか「脳科学的には〜」だとかもっともらしくでてくるのだが、研究で得られたデータがどれだけ真っ当なものなのかは本書を読むだけでは全然わからない(出典は、WEB上で公開されている)。ベストセラーになった『話を聞かない男、地図が読めない女』で大々的にその存在がアピールされた脳の性差(生まれた時から男女の脳は働きが違う! と言われると信じちゃうけれど、環境因子の影響もあるだろ……と批判されるべきもの)についての言及も多い。さまざまな「結婚のサイエンス」をパッチワーク的に使って、夫・妻、それぞれに対して教訓を与える面白い読み物ではあるけれども。

ざっくりとその教訓を紹介すると……

  • 不満は溜め込まないで吐き出せ!(ただし相手を侮辱するな。落ちついて話せ!)
  • セックスはしたくなくてもしとけ!
  • ケンカの原因は大体において根本的な解決をしない!(だから気にすんな!)
とか。新婚ホヤホヤならこういうことはわからないかもしれないけれど、書いてあることは「あー、やっぱりそうだよねー。統計とったらウチみたいな夫婦多いんだなあ」、「みんな似たような悩みを抱えてるんだなあ……」としみじみ思う点が多々ある。サイエンスによって「夫婦あるある」を認識する感じ、というか。しかし、紹介されている研究に協力している多くの夫婦が、アメリカのそこそこ中流階層(かそれより上の人)。それはたまたま日本の中流家庭と共通項を持っていただけで、階層ごとに全然夫婦の在り方は違うかもしれない、とも思った。

冒頭、そもそも「一夫一妻制」という世界中で広く見られる風習・文化・制度は正しいのか、という話が展開されるのだけれど、正直そこが一番面白いかも。よく結婚否定派の人が「生物には自分の遺伝子を多く・広く残したいという本能をもっているハズ。だから結婚は生物学的に間違っている」とか言うじゃないですか。わたしはそういう本能論に対して全般的にうさんくさいな、と感じていて、「本能」とか「母性」とかを持ち出して語られるものの大半が可塑的なものなのでは、と常々思ってるので、そのへんを他の生物の生殖行動と絡めながら「一夫一妻制は生物的に誤っているのか!?」というところを検証しているのを興味深く読んだ。

コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...