北大路魯山人 『春夏秋冬 料理王国』

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春夏秋冬 料理王国 (ちくま文庫)
北大路 魯山人
筑摩書房
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『開運! なんでも鑑定団』を観まくっていることは以前にも書いたけれども、あの番組を観ていると北大路魯山人について気になってくるのは当然であって、その著作に触れてみた。海原雄山のモデルになった食客による食全般に関するエッセイ。本としての初出は1960年だそうで、著者は1959年に76歳で亡くなってるから死後に出ていたことになる。それぞれのエッセイがいつ書かれていたのかわからないけれども、基本的には「良い食材を使え!」とか「料理人の大部分は食材を殺しているからいかん!」とかそんなことばかりで特別目新しいものはなかった。「アメリカよりイギリスのほうが飯がうまい」とか今言われてる定説とはズレてることを書いていたり、「寿司屋が堕落しているのでそのうちコンビーフとかトンカツの寿司が登場するに違いない!」みたいな予言じみた文句は面白いけれど、食エッセイなら、強風下におけるマッチの正しい使い方評論家のほうが断然面白い。

「旨いものは現地で食え!」という魯山人の現場主義も流通や冷蔵技術が未発達だった頃のお話であって、今だと東京で食べるのも現地で食べるのも実質変わらないのに、現場主義が「やっぱり現地で食べるのが趣きがあって良いですな」ぐらいのツーリズムに失墜している、と言えるかも。食に対するリテラシーでいったら、当時の魯山人よりも、現代においてそこそこお金を使っていたら魯山人よりも美味しいものを食べている可能性があり、美味しいものが食べられる時代に生まれて良かったなあ……という意見は、本書を先に読んでいた妻と一致した。

この当時からサシが入った牛肉っていうのは、美味しいものとされてきたんだなあ、だとか「過去の味覚」を探るのは面白くはある。魯山人の味覚を分類するに「繊細な味がする上手物」と「脂肪分が多い下手物」という二つの基本軸がある。これは実に単純なものだと思う。本書のなかで魯山人はフランス料理を強烈にdisっているんだけれども、それはこの味覚センスによるものなのでは、とも思われた。大岡昇平とともにトゥール・ダルジャンに行き、鴨を注文したが焼き方が気にいらず、山葵醤油で食べた、という有名なエピソードも本書に収録されているのだが、これを読んでいたら「野菜でも肉でもサッとあぶって岩塩でもかけてだしてたら喜んで食べたんでは」と思わされる。昭和29年(1954年)に日本のジジイがアメリカ、ヨーロッパをまわってまともに扱ってもらえるかもわからないけれど、自分の舌にあわないものを全否定する狭量さは今では滑稽に思えるかも。

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