世界の珍しい楽器たち――オンド・マルトノ編

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 西洋音楽史は作曲技法の発展の歴史であると同時に、作品を演奏するための「楽器」の進化の歴史でもありました。ですから作曲家や演奏家といった「音楽家」だけではなく、彼らの要望に答えるため技術者や職人たちが試行錯誤を繰り返していた、という事実は忘れられてはなりません。


 20世紀に入ってもそのような「楽器の進化」は留まることを知りません。むしろ伝統の確立によって楽器の精密さは向上し、また科学の発展と技術の進歩はそれまでにない楽器の誕生を可能にしました。フランスの技術者であったモーリス・マルトノによって開発された「オンド・マルトノ」もそのような流れのなかで製作されたものと言えましょう。


 世界に存在する珍楽器愛好家の皆様、こんにちは。申し遅れましたが私、珍楽器妄想博物館の館長を務めております、mkと申します。本日はこの世にも不思議な電子楽器の紹介をさせていただきたいと思います。


 まず、冒頭に挙げましたのはナクソスから発売されている『オンド・マルトノのための作品集』というアルバム。最初から最後までオンド・マルトノ一色で染め上げられた素敵な一品です。20世紀フランスの大作曲家であるオリヴィエ・メシアンの未刊作品のほか、イギリスの前衛ロックバンド“ヘンリー・カウ”のメンバーであったリンゼイ・クーパーの作品も収録し、資料的な価値も高いと思われます(他の作曲家も名前すら聞いたことがない人ばかり!)。



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 こちらの映像では、オンド・マルトノによってどのような音楽が可能になるか、という説明が行われております。ピアノやオルガンと同様に鍵盤を装備しているため、同時に複数の音を発振することができそうですが、実は単音楽器。もちろん鍵盤による操作も可能ですが、通常は「リボン」と呼ばれるワイヤーを操作することで演奏されます。これによって、鍵盤楽器では不可能となっている自由な音高の操作が可能となっています。ポルタメンやヴィブラートといった弦楽器のような演奏ができるわけです。


 映像の後半にも登場しますが、オンド・マルトノはもともとテルミンをもとに開発されました。ですから「自由な音高操作」という点では両者は似通った特徴を持っています。しかし、オンド・マルトノはそれだけに特化した楽器ではありません。「スピーカーユニットによる音色の選択」という機能も持っています。


 むしろ、オンド・マルトノの「最大の特徴」が音色である、ということができましょう(音色に注目する点が、フランス生まれの楽器という証拠でしょうか)。電子的に出力される音を、銅鑼のような形をした金属やギターのような弦といった共鳴部を通すことによって、非常に豊かな音色を出せるオンド・マルトノは「最もアコースティックな電子楽器」と称されるべきかもしれません。



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 オンド・マルトノを使用する作品で、現在最も演奏機会が多く、ポピュラーなのがメシアンの《トゥーランガリーラ交響曲》となっています。この10楽章にも及ぶ「愛と喜びの交響曲」でも、抜群に個性を発揮し、エロティックな音色で音楽を鮮やかに演出しています(映像は、アンドリュー・デイヴィス指揮イギリス・ナショナル・ユース・オケによる演奏。楽器編成は通常の倍という特盛仕様)。メシアンには《美しい水の祭典》というオンド・マルトノ6重奏のための作品もあるのですが、残念ながらこちらはめったに録音を見つけることができません(売っているのを見かけた方は是非ご一報ください)。ちなみに《トゥーランガリーラ交響曲》のCDはケント・ナガノ/ベルリン・フィル盤がオススメです*1



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 オンド・マルトノは近年、クラシック以外の領域でも姿を見ることができるようになってきました。その契機となりましたのが、イギリスのロックバンド“レディオヘッド”のギタリスト、ジョニー・グリーンウッドがこの楽器を演奏していることです(『National Anthem』の冒頭で彼が弾いているのがオンド・マルトノ)。なんでも彼はオリヴィエ・メシアンをリスペクトしているそう。なんとも分かりやすい影響の受け方ですが、珍楽器を世に広めてくれる絶大な広告塔としてレディオヘッドには頑張って欲しいと思います。


 皆様、だんだんとオンド・マルトノの魅力に目覚めてきた頃合でしょうか?しかし、ここで悲しいお知らせがあります。この楽器、開発者のモーリス・マルトノが一台一台手作りで製作していたため、彼の死後、生産することができず現存するのは世界に300台のみ、という大変レアなものなのです。現在、フランス国立音楽院ではオンド・マルトノ科も開講されておりますが、折角この楽器に魅了されても自分で手に入れられなければフランス留学もままならないよ……という皆様の悲痛な声が聞こえるようです。

 が、ご安心ください。日本でもオンド・マルトノに触れることは可能なのです。遠いフランスと日本を繋げる貴重な存在が、日本人オンド・マルトノ奏者、原田節*2氏。彼もまたフランス国立音楽院のオンド・マルトノ科を卒業した人物(つまり我々の「未来の先輩」というわけです)で、自らオンド・マルトノ講座を開講しこの楽器の素晴らしさを広める活動を行っているそうです。



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 本日はここまでお付き合いいただき、まことにありがとうございました。締めくくりはYoutubeで見つけたメシアンの《Oraison》という作品(これは私も調べるまで知りませんでした)。珍楽器妄想博物館では、また皆様に会える日を心よりお待ちしております。それでは。






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