木村榮一 『ドン・キホーテの独り言』

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ドン・キホーテの独り言
ドン・キホーテの独り言
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木村 栄一
岩波書店
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ラテンアメリカ文学の翻訳で有名な木村榮一によるエッセイ集。セルバンテスの生地であるアルカラー・デ・エナーレスにあるアルカラー大学に赴任していたときの印象から語られる文化・文学エッセイ、といったところでなかなか楽しく読んだ。よく登場するのはアルゼンチンのホルヘ・ルイス・ボルヘスやメキシコのオクタビオ・パスといった名前で「舞台はスペインなのに……?」というミスマッチが無きにしもあらずだが、著者の専門がそちらだから致し方ないのだろう。しかしながら、ほとんどスペイン語で書かれているラテンアメリカ文学の源流としてスペインがあることは言わずもがなであるし、ラテンアメリカの文化の多層性・雑多性と、スペインの文化の多層性・雑多性が共鳴しているかのように読めるところが興味深かった。

スペインについて、日本人である我々はなにを知っているだろうか。リーガ・エスパニョーラ? パエリア? ハモン・セラーノ? 闘牛? ガウディ? アルハンブラ宮殿? フラメンコ? 単語だけはいろいろ知っている。でも、それがスペインのどの地域にあるもので、どういう起源を持っているかはほとんど知られていない。スペインに留学経験があって、スペイン語を操る友人は、東京のスペイン料理屋について「海の物も、山の物も同時に扱ってるスペイン料理屋って変。観光地の料理屋みたいだよ」と言っていた。マドリッドで食べる魚介のパエリアなんて、箱根で食べる寿司みたいなものなのかもしれない。でも、そういう文化的な誤解が生じるのが当然視されるほど、スペインはいろんな文化の寄せ集めでできている。そして、周辺の国々に多大な影響を及ぼしてきたのだ。

本書でもアヴェロエスについて触れられているが、中世ヨーロッパの思想界に最も大きな影響を与えたこの人物は、コルドバ生まれのイスラーム教徒であり、そういう人物がギリシア哲学を中世ヨーロッパに伝えることになったのである。「ヨーロッパの国」として思い浮かべる国としては、ドイツや、フランス、イタリアの次ぐらいの順位にきそうなスペインだけれど、本書を読んでみて改めて、歴史的な重要度を思い知らされた。

本書は現代スペイン文学についても紹介している(とくにフリオ・リャマサーレスが極めて重要な作家として挙げられている)。本書の刊行から10年以上の年月が経っているため、当時翻訳がなかったリャマサーレスも本書の著者の手で邦訳がでている。それだけでなく、本書で紹介されている翻訳がなかったスペイン語の小説のほとんどが邦訳されているのだから、著者や野谷文昭といったスペイン語で書かれた文学の紹介者たちの仕事ぶりの活発さにも感じ入ってしまうところだ。願わくば、16-17世紀の詩なんかももっと手軽に読めるようになると良いんだけれど。

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