吉田類 『酒場詩人の流儀』

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酒場詩人の流儀 (中公新書)
吉田 類
中央公論新社
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酒を常習的に飲んでいる期間は人生のうち、3分の一ぐらいだろうか。そうはいっても「酒を嗜む」ようになったのは、ごく最近のことであるようにも思う。酒を嗜むとは、酒に関する『美味しんぼ』的な蘊蓄を語ることではない。酒場を巡ったり、酒に出会いながら、その場所の空気を一緒に飲むようにして酒を飲む、そういう詩情に溢れる楽しみ方である。アルコールによって忘我の境地に至るのではない、その一歩手前に、ロマンティックな酒の嗜みがあり、その体現者であるのが「酒場詩人」吉田類という男であろう。各地の酒場に出向き、たまたま出会った一般客のつまみを横取りしながら、酒を飲んだりする伝説的なテレビ番組『吉田類の酒場放浪記』の案内人である彼は、私にとって憧れの酒飲みである。初めてその存在を知ったのは『タモリ倶楽部』の立ち飲み企画だったか。メフィストフェレス的な怪しげな風貌で飲みまくっている姿に、わたしは魅了されたのだった。

『酒場詩人の流儀』は彼が地方紙で連載していたコラムを纏めていたもので、これまた吉田類という人間の魅力の別な一面にスポットが当てられている本であった。タイトルは「酒場ではこういう振る舞いがふさわしい」だとか「この店がマイウーである」だとか、そういうことを語っていそうな雰囲気だが、山歩きや渓流釣りといったネイチャー系の趣味が多いに語られ、酒場詩人が酒場を飛び出して、自然を肴に酒を飲むようなお話が続いている。また、教養もスゴいんですよね。この人は高知の生まれで「お、出なすったな、酒飲み県民!」という感じがあるが、源平合戦の伝説が各地に残っているらしく、四国の各地を歩いて、安徳天皇にまつわる風俗などに出会ったりする記述はとても面白い。で、まあ、いい感じに孤独なんですよね、吉田類さんという人は。

孤独であることは悪いことじゃないし、むしろ、もっと孤独でありたい、とか思う。「ひとりで居酒屋に入る」なんて言うと、たまに言っているこっちが驚くほど、驚かれることがあるけれど、ひとりでお店に入ってみないとわからないこともある。もし「ひとりで居酒屋に入るなんて信じられない」という人がいたら、本書を読んで、偏在する酒場詩人たち(わたしを含めてもらって良い)の気持ちを想像していただきたい。カウンターで、黙って飲んでいる酒場詩人は、寂しい気持ちを抱えているばかりではない。心地よい孤独、心地よいお一人様感覚というのが、そこにはあるんだよ。

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