バルトークの弦楽四重奏曲について

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バルトーク:弦楽四重奏曲全集
アルバンベルク四重奏団
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 ひさしぶりにベラ・バルトークの弦楽四重奏曲を聴きなおしたら以前よりも鋭く心に刺さってしまったので、彼が遺した六曲の弦楽四重奏曲について書いてみます。これらの作品を私は以前「ハードロックみたいに激しい現代音楽の古典」みたいな聴き方しかできなかったのですが、今になってみるとこれが大変な名曲揃いで素晴らしい。それぞれの個性が際立っていて、退屈な曲がひとつもありません。ベートーヴェン以降に最も重要な弦楽四重奏曲作家に、ドミトリ・ショスタコーヴィチとともにバルトークの名前が挙がるのもよく理解できます。CD二枚組で収まる量ですし、アルバン・ベルク弦楽四重奏団による全曲録音が手ごろな価格で手に入れられますので、バルトーク入門にももってこいかと思われます。





第一番


 一九〇八年に完成した第一番は、バルトークが受けたであろう後期ロマン派/新ヴィーン楽派の影響が色濃く出た傑作です。バルトークの代名詞である「民謡から旋律の引用」は登場しませんが、調性の制限から抜け出たことによる退廃的かつロマンティックな崩壊美と、厳格な対位法による構築美、というアンビヴァレントな美しさが同居しています。とにかく第一楽章のレントが素晴らしいです! 無調/十二音音楽の祖であるアルノルト・シェーンベルクの傑作である弦楽四重奏曲第二番とほぼ同時代に書かれたものなのですが、これらの二つの作品が持つ雰囲気はおどろくほど似通っている。私はシェーンベルクという人を、後期ロマン派の正統的な後継者であり、かつ、二十世紀最大のロマンティスト、と考えておりますが、この第一番を聴いて、後期ロマン派から枝分かれしたもう一つの潮流をバルトークに見出しました。



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(演奏者未詳 弦楽四重奏曲第一番:第一楽章 レント)





第二番


 第二番は一九一五年から一九一七年の間に書かれています。第一番から少し間が空いているのですが、この間にバルトークは書法をより多彩にしているようです。ここには「民謡からの旋律の引用」も登場しますし、複雑なリズムはさらに先鋭化、さらに旋律をパートに分散することによって生まれる効果などもかなり考えられて作られていることが分かります。どの楽章も面白いので、ハイライトをピックアップするのがとても難しい。第二楽章の力強さも良いですし、第三楽章の無調によるロマンティシズムも良い。強いて言えば、第一楽章の身もだえするようなシンコペーションの嵐でしょうか。聴いていると体感がねじれていく様な感じ。



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(アコード弦楽四重奏団 弦楽四重奏曲第二番:第一楽章 モデラート)





第三番


 第三番は一九二七年に完成しました。この作品に続く第四番とともに、この作品をバルトークの弦楽四重奏曲におけるひとつの到達点として考えることがあるようですが、それが大いにうなづける傑作です。全四部の単一楽章の作品なのですが、全体を貫く構成力が素晴らしく、第一部で小さな動機がさまざまに形を変えながら、積み上げられるようにして雰囲気を盛り上げていき、第二部に突入、民謡風の旋律を激しく奏でるまでの流れは震えるほどカッコ良いです。マジでヤバい。ハンガリアン・ファンクかつ、メタル(よくわからない形容)。余談ですが、この作品は菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールの「ソニア・ブラガ事件」の元ネタのひとつになっているように思います。



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(アコード弦楽四重奏団 弦楽四重奏曲第三番:第一部から第二部)





第四番


 第四番は一九二八年に完成しています。第三番との間がほとんど開いていないせいか、両者が荒々しい部分の性格はとてもよく似ています。しかしながら、第四番は前作よりもさらに暴力的な荒々しさが深化しております。六曲のうち最もヘヴィな印象を受けますが、全五楽章の真ん中にある唯一の緩叙楽章が際立って美しい。チェロによる旋律を支えているコードの妖しさがたまりません。この作品を聴くと、バルトークの動と静、両面の素晴らしさがよく分かる気がします。個人的には彼の静的な音楽の美しさを理解するのにかなり時間を要しましたが。



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(ジュリアード弦楽四重奏団 弦楽四重奏曲第四番:第三楽章、第四楽章)





第五番


 第五番は一九三四年に作曲されています。第三、四番と続けて書かれた作品では、かなり前衛的な書法を採用していたバルトークですが、ここでは伝統的な和声法への回帰が見られます。その点を考えれば、彼の弦楽四重奏作品の中でも最もポップな音楽として聴くことができるかもしれません。とはいえ、単純に一九世紀の世界へとバルトークが戻るわけがなく、彼らしい音楽的要素が散りばめられた傑作と言えましょう。一ヶ月ほどで書かれたそうですが、民謡、ポリリズム、変拍子、厳格な対位法が駆使され、一切の手抜きや瑕が見受けられない恐ろしい完成度。第三楽章のスケルツォの中盤で突然始まる民謡風の旋律、この後ろでヴァイオリンがポリリズムで囁いているところがとても好きです。



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(演奏者未詳 弦楽四重奏曲第五番:第三楽章 スケルツォ・ブルガリア風に)





第六番


 第六番は一九三九年に書かれました。他の作品に比べると、全体的に暗い雰囲気が漂っているのですが、この作品が書かれた年にヨーロッパはどのような状況であったのかを考えると色々と考えさせられるものがありますね。楽曲解説によれば、全四楽章を通じて≪悲しみ≫の主題が使用されているそうです。「ファシズムの台頭に対するバルトークの悲哀が……」とか言ったところでしょうか。バルトークらしい音楽語法の完成形をこの作品のなかに見ることができ面白い作品なのですが、六曲のうちで唯一「大好きです!」と言えないものでもあります。とくに終楽章が暗すぎる。ダークサイド・オブ・バルトーク。解決しないまま穏やかに終わるところもなんだか意味深です。



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(タカーチ弦楽四重奏団 弦楽四重奏曲第六番:第四楽章 メスト)





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