ふたつの文化が出会い、それぞれのスタイルがマリアージュされることで新しいスタイルが生まれる。この現象はさまざまな領域において確認されることでしょう。例えば、大きな歴史でいえばヘレニズムが代表と言えるでしょうし、モンド・ミュージックの文脈において、テクノ歌謡などは一部の好事家に大変愛されたジャンルとして認められている。それらの魅力とは「一粒で二度美味しい」というお得感だけではなく、元々別れていたそれぞれのスタイルが止揚され、元々のものとは全く違った異形感が醸し出されていることにもあると思います。16世紀半ばからポルトガルやスペインが日本に持ち込んだキリスト教美術や西洋絵画の技法が日本画に影響を与え、日本人の手によって制作された南蛮屏風の世界もこの異形感で我々の目を楽しませてくれるものです。長崎歴史文化博物館の平岡隆二さんの研究*1に触れることで、かねてから南蛮美術に興味を抱いていたのですが、今回のサントリー美術館での企画展『南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎』は、そんな個人的なニーズにぴったりなものでした。
メインとなるのはタイトルにもある『泰西王侯騎馬図屏風』というヨーロッパやエチオピア、トルコなどの統治者を描いた屏風。この大作は、2つで1セットとなっており普段はサントリー美術館と神戸市立博物館とで別々に収蔵されているそうですが、今回は揃いで並べられて鑑賞することのできる貴重な機会と言えましょう。モチーフとなっているのはウィレム・J・ブラウというオランダの地図学者の世界地図にあった装飾で、これをもとに日本人の画家が制作したものなのだそうです。ほかの南蛮屏風は、描かれているものが西洋のものだけれど書き方は日本画そのまま、西欧人の顔はまるで黒船で来日した《ぺるり提督》のものだったりするのですが、この作品は《抜け方》が圧倒的でした。
しかし、一番のインパクトはキリスト教禁制下で制作されたものを紹介するコーナーにある『元和五年、長崎大殉教図』でした。こちらは長崎にいた日本人のキリスト教徒が迫害から逃れてマカオにたどり着き、そこで制作したものと言われているそうです。技法的に特別優れているものではないのですが、長崎でキリスト教徒と宣教師たちが見せしめに虐殺されている様子が一大パノラマで描かれており、かなりエグい。いままさに残首されようという瞬間や、すでに落とされた首が並べられているところが詳細に描きこまれていて、ものすごいパッション感。
海外から日本に入ってきた文化から生まれた美術だけではなく、海外の人が日本人の技術に注目して作らせた工芸品の展示もとても面白かったです。小型の宗教絵画をいれておく聖龕やトランクケースを蒔絵でギンギンに装飾させたものを海外の商人は持ち帰って売っていたらしいのですが、こういうのは17世紀のクール・ジャパン、とでも言うのでしょうか、工芸技術の高さは今見てもホレボレしてしまうものです。日本の美術・工芸に対して新たな見識をもたらしてくれる良い企画展だったと思います。
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