Frances Yates
Routledge
売り上げランキング: 45114
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半年ほどかかってようやく読了。この本については旧「石版!」で第10章までかなり詳細な読書メモを残してた(イェイツの『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス主義の伝統』を読む(原書で))。その後、11章突入後は本業が急激にアレな感じになり、メモを残していたら読むのに1年かかってしまう……と懸念されたため、後半はまったくメモを残していない。
前半(10章まで)は「ヘルメス主義ってなんだ?」というところからヘルメス文書の存在と、その扱われ方の変遷について。前半はタイトルにあるジョルダーノ・ブルーノがほっとんど出てこなくて、それ以前の思想家のお話だけ。ルネサンスにおける魔術リヴァイヴァルが、ブルーノの強烈に個性的な思想を醸成する基盤となっており、16世紀後半という時代のなかで彼の存在だけを見てみるとやけに突飛で特異点みたいな人物なのだが、実はヘルメス主義の伝統という文脈から自然発生していて(個性的だけれども)特段不思議はないんだぞ、ということが後半で出てくるのだけれども、前半をしっかり読んでおくとこの部分で「なるほど〜」となる。
後半は19章までずーっとジョルダーノ・ブルーノの足取りを辿っていく伝記的文章が続く。イタリアのノーラという土地に生まれて、ドミニコ会に入り、異端の疑いをかけられてからはヨーロッパ各地を遍歴するブルーノの動きは、当時の宗教改革やユグノー戦争などの政治的な動きとマッチしていて、思想史的な知識だけでなく、社会史的な知識も必要となってくる。特にフランス滞在以降はこのときアンリ三世に気に入られ、カトリック側の諜報員みたいな仕事もしてたんじゃないか、などなど歴史ミステリーかよ、ウンベルト・エーコかよ、みたいな話もあったりして楽しいのだが、当時のフランスの政治的状況の話なんか全然知らなかったので読むのがツラかった……。思想の話よりも、政治の話のほうが難しい。ブルーノといえばコペルニクスの地動説を擁護して、火あぶりにされた人物であることが有名で、当然コペルニクスの話も出てくる。
けれども、そうしたエピソードから想像され得る「ほ〜、この人は近代科学の自由のために教会と戦った殉教者なのだな〜」という認識は、実は全然間違っているのだよ、というのが本書の主張のひとつ。ブルーノは生粋のヘルメス主義者であり、古代エジプトの叡智を当世に復活させることが、そして宗教戦争によって荒廃したヨーロッパに統一をもたらすのでは〜、と壮大なプロジェクトを掲げており、コペルニクス擁護についても、それがエジプトにおける太陽信仰や諸々の世界観と合致していたからなのだ、とイェイツは言う。コペルニクスは数学的探求から地動説を導いたけれど、ブルーノはスピリチュアルなのだ、みたいな感じ。また、火あぶりにかけられたのも異端がどうこう、よりも政治がらみの話があったのでは、などと。
ブルーノの死後のお話が20章から22章まで。19章までで随分長いのに、しっぽの先まで餡子が詰まったたいやきのようなマッシヴな本だな〜、とこのあたりでだいぶ疲れてきて投げ出そうかと思ったが、残りの3章で「トンマーゾ・カンパネッラ(ブルーノのちょうど20年後に生まれて、よく似た生涯を辿った人物)」、「ヘルメス文書は実は古代エジプトで書かれたものではなく、偽書だった、と明かされた後、ヘルメス主義者はどうしたか」、「魔術の失墜、そして近代科学のテイクオフへ……」みたいなテーマが怒濤の勢いで語られるので、必死でついていくほかない。最終章では「17世紀の科学史を研究するなら、宗教的な側面と、科学的な側面、どちらか一方でなく、どちらも取り扱わなくちゃね(だって科学がグノーシス的な二元論で行われてきたわけじゃないでしょ?)」(大意)という提言もあって、名文だな〜、とおののいたりした。
前半(10章まで)は「ヘルメス主義ってなんだ?」というところからヘルメス文書の存在と、その扱われ方の変遷について。前半はタイトルにあるジョルダーノ・ブルーノがほっとんど出てこなくて、それ以前の思想家のお話だけ。ルネサンスにおける魔術リヴァイヴァルが、ブルーノの強烈に個性的な思想を醸成する基盤となっており、16世紀後半という時代のなかで彼の存在だけを見てみるとやけに突飛で特異点みたいな人物なのだが、実はヘルメス主義の伝統という文脈から自然発生していて(個性的だけれども)特段不思議はないんだぞ、ということが後半で出てくるのだけれども、前半をしっかり読んでおくとこの部分で「なるほど〜」となる。
後半は19章までずーっとジョルダーノ・ブルーノの足取りを辿っていく伝記的文章が続く。イタリアのノーラという土地に生まれて、ドミニコ会に入り、異端の疑いをかけられてからはヨーロッパ各地を遍歴するブルーノの動きは、当時の宗教改革やユグノー戦争などの政治的な動きとマッチしていて、思想史的な知識だけでなく、社会史的な知識も必要となってくる。特にフランス滞在以降はこのときアンリ三世に気に入られ、カトリック側の諜報員みたいな仕事もしてたんじゃないか、などなど歴史ミステリーかよ、ウンベルト・エーコかよ、みたいな話もあったりして楽しいのだが、当時のフランスの政治的状況の話なんか全然知らなかったので読むのがツラかった……。思想の話よりも、政治の話のほうが難しい。ブルーノといえばコペルニクスの地動説を擁護して、火あぶりにされた人物であることが有名で、当然コペルニクスの話も出てくる。
けれども、そうしたエピソードから想像され得る「ほ〜、この人は近代科学の自由のために教会と戦った殉教者なのだな〜」という認識は、実は全然間違っているのだよ、というのが本書の主張のひとつ。ブルーノは生粋のヘルメス主義者であり、古代エジプトの叡智を当世に復活させることが、そして宗教戦争によって荒廃したヨーロッパに統一をもたらすのでは〜、と壮大なプロジェクトを掲げており、コペルニクス擁護についても、それがエジプトにおける太陽信仰や諸々の世界観と合致していたからなのだ、とイェイツは言う。コペルニクスは数学的探求から地動説を導いたけれど、ブルーノはスピリチュアルなのだ、みたいな感じ。また、火あぶりにかけられたのも異端がどうこう、よりも政治がらみの話があったのでは、などと。
ブルーノの死後のお話が20章から22章まで。19章までで随分長いのに、しっぽの先まで餡子が詰まったたいやきのようなマッシヴな本だな〜、とこのあたりでだいぶ疲れてきて投げ出そうかと思ったが、残りの3章で「トンマーゾ・カンパネッラ(ブルーノのちょうど20年後に生まれて、よく似た生涯を辿った人物)」、「ヘルメス文書は実は古代エジプトで書かれたものではなく、偽書だった、と明かされた後、ヘルメス主義者はどうしたか」、「魔術の失墜、そして近代科学のテイクオフへ……」みたいなテーマが怒濤の勢いで語られるので、必死でついていくほかない。最終章では「17世紀の科学史を研究するなら、宗教的な側面と、科学的な側面、どちらか一方でなく、どちらも取り扱わなくちゃね(だって科学がグノーシス的な二元論で行われてきたわけじゃないでしょ?)」(大意)という提言もあって、名文だな〜、とおののいたりした。
フランセス・イエイツ
工作舎
売り上げランキング: 453079
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名著なのは間違いないのだから邦訳ももう少し安くなればねえ……。
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