チベットと「美しい国」の心性、それから他者

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 チベットであれこれ起きて、結構死んだ人が出たっつー事件があった。私としては、基本的にノンポリだし、っつーかチベットと中国の政治事情についてよく知らんので「大変だなぁ」と思うぐらいなのだけれど、いくつかのブログやmixiの日記などに書かれた事件について文章は興味深かった。具体的にここで「この記事」とあげることはしないけれど、事件について書いた人の多くが「中国政府はひどい。チベットは抑圧されていて可哀想(チベット独立賛成!)」みたいなスタンスだったように思う。


 たしかにデモで集まってる人にバンバン鉄砲撃っちゃうのはひどい。ここは素直に納得できる。でも「チベット独立賛成!」みたいな発言はよくわかんない。これはあまりに無責任で現実が見えてない発言だと思う――独立してどうするのか?やっていけるのか?そこまで見据えた人でなければ、こういう発言はしてはいけない気がする。そうでなければビョークとかジョン・レノン(現実見てない人!)とまとめて一緒に叩かれても仕方ない。

 思うに、こういう発言をおこなう人には「独立即ち良いことである」と考えられるような思考回路が備わっているのではないか――これは言い換えれば、現実的な利益ではなく、民族の独立と自決という「メンツ」の問題のほうが国民のためになる、という非常に美的な国家の捉え方である。ここで、こういう美的なナショナリズムについての宮台真司の発言をひいておこう*1



日本で国益という場合、世代によってふたつの異なった受け取り方があります。ひとつは国民益という考え方で、これは計算可能なものです。


ようするに、国民にとって利益になるかどうかを徹底的に分析する。コスト分析やリスク評価をして、どういう選択がどういう利益または不利益をもたらすのかを考え、利益を増大させ、不利益を減らそうとする立場です。


その一方で、魂のふるさととしての国体に殉ずることを国益とする立場もある。国体に殉ずる精神的な営みから見た場合、計算可能な国民益が低下するような選択であっても、あえて国益だと見なすわけです。


典型的には「一億総玉砕」という発想ですね。国民の全員が死に絶えても、国家の尊厳が維持されるとします。



 美的なナショナリズムは、もちろん「一億総玉砕」のほうに位置する。宮台は「(こういう考えは)若い人には理解しがたいかもしれない」としているのだが、「チベット独立賛成!」という意見をいくつも見ていると、実は隠れたところで戦中と同様の心性は受け継がれているのかもしれないな、と思ってしまう。こうなると安倍晋三が一時人気だった理由も明白である。美的ナショナリズムの人にとっては、中身が全くなくて、キレイごとばっかり言ってるほうがウケるんだろうから。


 中国政府に対する非難、これについても少し引っかかるところがある。デモを起こす人を抑圧する。ここには少なからず、国益の問題が絡んでいるだろう(チベットが独立したりすると、中国政府がどういう風に困るのか、全然知らないけど)。困るから、抑圧する。これはまた、国家のなかに得たいの知れない他者が現れるという問題への対応でもある。暴力によって他者を黙らせる。


 デメリットが生じることへの対策としてこれらを行うことは当然なことではないのか、と私は思う。というか、現にそのような他者への不寛容さを発揮する人が日本にもいるにもかかわらず、中国政府を非難することは果たして正当なものなのだろうか、と思うのである。


 サリン事件後にオウム信者が受けた差別や反対運動、あるいは「学会員は気持ち悪い」というような発言。在日問題でも良い。近くにある不寛容さを適当に放置して、遠くにある不寛容さばかり攻め立てるのは「なんか違うなぁ……」と感じたりする。「全く別問題でしょ!(似たような問題だと考えてるのはアンタだけだよ!)」と言われたら、それでおしまいなんだけど。






2 件のコメント :

  1. チベット問題については以下のURLに詳しいです。なぜ多くの人が中国を非難し、チベット独立を応援するのかが少しでも理解できると思います。余計なお世話かもしれませんがご参考まで。

    かなろぐ「チベット問題に厳しい視線を」
    http://blog.goo.ne.jp/kanataylfc/e/485e7f89d4594e462fbaa904109fce86

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  2. どうもありがとうございます。非常に勉強になります。とはいえ、私としてはこの問題において、何故「追従」か「独立」かというふたつのパターンしか論点とならないのか、が気になるのです。「共存」(遺恨を残しつつも『お互いの利益のためにそこは上手くやりましょうよ』的な道)が何故問われないのか――そこまでして初めてチベットを考えたことになるのでは?と思います(私は考えませんが)。

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