古川日出男『アラビアの夜の種族』

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アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)
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 傑作との誉れ高い古川日出男の『アラビアの夜の種族』全3巻を読み終える。面白かった……が、個人的には今ひとつハマれない作品だったというのが正直なところ。ものすごく丁寧に書かれていて「どれだけ資料(史料)を集めたら、これぐらいのモノが書けるのだろう」というところは驚きに値したけれど、逆に丁寧に書かれているからハマれなかったのかもしれない。特に「ストーリーの了解のしやすさ」だとか「主人公の心情などの理解のしやすさ」の部分が、ちょっとスムーズ過ぎるかな、と思ってしまう。とくに小説を読み慣れた人にとっては結構先の展開が読めてしまって、実際予想したような展開が先に書かれている。これでは少し退屈だろう。


 セルゲイ・プロコフィエフという作曲家が「私はいつも聴衆を驚かすことばかり考えている」というようなことを言っていたのを思い出す。結局のところ「趣味の問題」という話になってしまうけれど「私はこういうのを、あまり求めていない。読みたいのはもっと別な、理解も共感もできないような小説なのだろう」ということである。理解が容易であるということは、読み手の想像力に作品が収まってしまうに他ならない。こういうのは少しつまらない――と少なくとも私は思う。



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 とはいえ、これを読んでいる間、とても楽しかった点もある。それは「よくわからないけれど、とても響きがカッコ良い言葉」がたくさん書かれているところだ。例えば、以下に引用する文章など肌がビリビリするほど良かった。



この若者はコーカサス地方のチェルケス人の貧農から買いあげられたとして、齢十一のときにイスマーイール・アリーの面前につれてこられた。イスマーイールはカイロの城壁の外側、イズベキーヤ貯水池の東岸に豪奢きわまりない私邸をかまえるベイである。



 「コーカサス地方!」、「チェルケス人!」、「イズベキーヤ貯水池!」など読んでも何一つ具体的なイメージがわかないところが素晴らしいこのとき言葉は「意味を伝える文字」ではなく「音を伝える文字」としての性格が剥き出しになる。そして、そこで伝えられた音声は痺れるほどカッコ良い――全然関係ないけれども「ビルトインスタビライザー!」も意味不明な言葉でカッコ良い。


 また、このときから古川日出男は、かなり音声的な作家であったんだな、と思ったりした。最近、朗読活動などをやっていたせいか、この点に注目が集まっているみたいだけれど、当初からかなり意識的に「物語ること」、「発声すること」に意識は向いてたのかなぁ。あと舞台をアラビアとしているのも、結局、名前の響きが最高にクールだったからなんじゃないか、などと邪推してしまった。



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