ピーター・バラカン
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本書における歴史記述は「ミュージシャンBはミュージシャンAに影響を受けて〜」といったミュージシャンの創造性をなんとなく歴史として紡いだものではなく、当時のレコード会社の状況であったり、プロダクション・レヴェルでの話に多くのページが割かれている。音楽についての本、というよりは、音楽産業や音楽文化についての本、というほうが正確なぐらいに。それが、ミュージシャンを語るときの厚みを生んでるようにも思います。ミュージシャンについて語るときにはいろんなアプローチがあると思います。「とにかく楽器が上手い」とか「コード進行が変態的」とか「白塗りでファルセットで歌うのがスゴい(得意料理はレモン・タルト)」とか、いろんな。でも、その記述はあくまで評価ですし、音そのものが伝わるわけではない。音が聴こえない文章によって音楽に興味を持たせるには、なんらかのストーリーが必要なのかもしれず、そうだとするならば本書の「この音楽、聴いてみたい!」と喚起する源には、アーティストの裏側に存在していた歴史があると思います。逆に、音楽だけ先に聞いていて、この本を読んで「なるほど、これはそういうことだったのか」と思うことも多かったです(『ブルース・ブラザーズ』の人たちって、そういう人なの!? とか)。それが音楽の聴き方を変えてしまうかもしれない。音楽は音楽だけでも独立するものですが、なんらかの情報によって、聴く角度を複数持つことも可能である、という風に思います。楽理的な分析に基づく記述だけが音楽を記述する言語ではない。
それにしてもピーター・バラカン的な価値観、これはちょっと別な意味で面白かったですね。どの音楽が芸術的か、価値があるか、聴く人が勝手に決めれば良い、と言いながら「産業ロック」や「ディスコ」は評価しない(それは音楽の作り手がマーケットに売れるものを狙って作っているものだから)、というのはダブル・スタンダードなのでは、と思います。そもそもソウルですら、産業として成立したからこそ、盛り上がったわけであり「産業でなかった音楽ってなんだ!?」と考えるならば、もはや、未開の部族に伝わる儀式音楽ぐらいしか思い当たらない(クラシックだって立派な産業だったでしょうし、ましてや現代音楽など、現代音楽マーケットにウケるモノを書いている立派な産業と言えます)。でも、こうした一見矛盾した価値観が広く受け入れられていて、支持されたりもする。マーケットを意識したものは音楽として不純である、みたいな。「ブルーズ」「ジャズィー」って言ったりして。その「ホンモノ指向」が気になるんだ……。
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