塚本勝巳
飛鳥新社
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先日読んだこのインタヴュー記事がたいへん面白かったので読んでみた。東大でウナギの研究をされている方の本(語りおろしなのかな)。ウナギの生態はアリストテレスの時代からの謎であることは、以前に『動物誌』を読んだときにも書いたけれど、本書ではこの2400年ほど前からの謎が今どこまで分かっているのかを教えてくれる。ウナギの進化についての仮説をストーリーにした部分は、偶然の積み重ねによって、それが自然に選択されていくように見えるロマンティックなものとなっていて面白かった。単なる雑学本の類にとどまらず、ウナギの謎を解き明かすための研究者の苦労がとてもドラマティックに描かれているのも良かったですね。研究が世の中のなにに役立つかはわからない、けれども、とにかく「面白い!」「知りたい!」という探究心に突き動かされる研究者の姿は、自然科学のみならず、人文科学の人にも伝わるハズ。
とはいえ、探究心だけで研究をさせてもらえる余裕がある世の中ではなくなってきているわけで、先に紹介したインタヴュー記事でも語られているけれども、日本の研究者たちは限られた資源を共有しながら自分たちの仕事を進めている。つまり、自分が使う研究資源は他のだれかが使いたかった資源なのだ。ウナギの卵を探して航海にでるのにも、自分たちが船を使っているあいだは当然他の研究者は船に乗れない。それゆえに業績を出さなくてはいけない責任を彼らは負っている。本書にある研究船内での作業の記述は、効率的に時間を使うために考え出されたものであることがわかるけれど、そうして生産性をあげていかなきゃいけない、っていう動機には、こうした責任感があるのかもしれない。業績を出さないと研究資源もとれないし、じゃあ、業績を出すために研究資源をどう使えば良いのかは、一般企業のマネジメントにも通ずる話な気がする。先日ノーベル賞を受賞された山中伸弥さんなんかも、どうやったら研究資金を確保できて研究を進められるのかに苦心されていて、視線はほとんど経営者みたいだし。
楽しいし、ウナギの卵やプレレプトケファルスを採取する箇所などは読んでて感動してしまう本なんだけれども、あえて文句をつけるなら、イラストの使いどころか。たとえば、調査に使っている網が海中でどのように開くのかなど、文章だけ読んでもよくわからない箇所がいくつかあって、イラストをいれるならもうちょっとちゃんと必要なところに割り当てて欲しかった。あきらかに雰囲気だけのイラストが入っているから余計にそのへんが残念に感じる。本当に細かいところではあるんだけれど。
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