スキップしてメイン コンテンツに移動

高橋雄介『クロールがきれいに泳げるようになる!』



 最近、スポーツ・ジムに行き始めたのは今月の頭ぐらいに食あたりになって(たぶん原因はお昼ご飯に家から持っていっていたおにぎりだろう……)体調を崩したせいで体重が3キロほど落ちてしまったせいである。元々痩せてるほうではあったのだが、頬はこけ、あばらが浮いた外見は、いかにも貧弱に見える。これでは男性の筋肉に性的な魅力を感じる、というタイプの女性に見向きもされないのは明らかだ。鍛えて体を大きくしなければ……そう思った。


 近所にあるジムにはマシン・ジムとプールがある。ジムの受付の人に聞いたら、どうやら同じ料金でジムもプール使えるとのこと。それならば、と思いガシガシとマシーンの重りを持ち上げたりするのと同時に水泳もはじめることにした。


 しかし、何年かぶりにプールに入ってみると自分が無様なほどに泳げないことに気がついたのである。周りではすいすいと休みなく泳いでいる人がいる脇で、私はといえば25メートルを往復するともう息が切れ、休憩が必要になる。折角、太もも全体を覆うタイプのカッコ良い水着を買ったのに、なんたる体たらくだ……その晩、私は家に戻りベッドのなかでひとり泣いた。「このままじゃ、筋肉好きな女性とこのベッドに入るなんて夢のまた夢だ……」と。



クロールがきれいに泳げるようになる!
高橋 雄介
高橋書店
売り上げランキング: 10917



 一晩が過ぎた。まだ、筋肉好き女性を諦め切れなかった私は、会社帰りにこの本を買った。ちょうど北島康介が金メダルを2つ取った直後だったせいか、平積みになっていて買うのが恥ずかしい感じのこの本を。書いたのは中央大学の水泳部を長年指導してきた先生だそうな。


 これはかなり面白い本だった。まず、著者の高橋先生は理工学部の先生らしく、ものすごく理詰めで「理想の泳ぎ方」を書いてくれている。しかもとても分かりやすい。水中において人はどのように水の抵抗を受けるのか、なぜ痩せている成人男性は水に浮きにくい(浮力だけの問題ではなくて、重心の問題らしい)のか。知らなかった知識が入ってくるので、私のような薀蓄大好き人間には読んでいるだけで楽しくなってくる。


 また、驚いたのはこの本に書かれた泳ぎ方と、私がプールサイドに置かれたベンチに座って「あの人、泳ぎ方綺麗だなぁ……」と惚れ惚れ眺めていたその姿がぴたりと一致していたことである。効率の良い泳ぎ方と美しい泳ぎ方は同じである、というこの理屈と美の整合性にちょっと感動してしまった。


 今後はこれをバイブルとして、仕事が早く終わったときにはすかさずプールに駆け込みたいと思っている。既にイメージだけは完璧だ!(童貞マインド)





コメント

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

桑木野幸司 『叡智の建築家: 記憶のロクスとしての16‐17世紀の庭園、劇場、都市』

叡智の建築家―記憶のロクスとしての16‐17世紀の庭園、劇場、都市 posted with amazlet at 14.07.30 桑木野 幸司 中央公論美術出版 売り上げランキング: 1,115,473 Amazon.co.jpで詳細を見る 本書が取り扱っているのは、古代ギリシアの時代から知識人のあいだで体系化されてきた古典的記憶術と、その記憶術に活用された建築の歴史分析だ。古典的記憶術において、記憶の受け皿である精神は建築の形でモデル化されていた。たとえば、あるルールに従って、精神のなかに区画を作り、秩序立ててイメージを配置する。術者はそのイメージを取り出す際には、あたかも精神のなかの建築物をめぐることによって、想起がおこなわれた。古典的記憶術が活躍した時代のある種の建築物は、この建築的精神の理想的モデルを現実化したものとして設計され、知識人に活用されていた。 こうした記憶術と建築との関連をあつかった類書は少なくない(わたしが読んだものを文末にリスト化した)。しかし、わたしが読んだかぎり、記憶術の精神モデルに関する日本語による記述は、本書のものが最良だと思う。コンピューター用語が適切に用いられ、術者の精神の働きがとてもわかりやすく書かれている。この「動きを捉える描写」は「キネティック・アーキテクチャー」という耳慣れない概念の説明でも一役買っている。 直訳すれば「動的な建築」となるこの概念は、記憶術的建築を単なる記憶の容れ物のモデルとしてだけではなく、新しい知識を生み出す装置として描くために用いられている。建築や庭園といった舞台を動きまわることで、イメージを記憶したり、さらに配置されたイメージとの関連からまったく新しいイメージを生み出すことが可能となる設計思想からは、精神から建築へのイメージの投射のみならず、建築から精神へという逆方向の投射を読み取れる。人間の動作によって、建築から作用がおこなわれ、また建築に与えられたイメージも変容していくダイナミズムが読み手にも伝わってくるようだ。 本書は、2011年にイタリア語で出版された著書を書き改めたもの。手にとった人の多くがまず、その浩瀚さに驚いてしまうだろうけれど、それだけでなくとても美しい本だと思う。マニエリスム的とさえ感じられる文体によって豊かなイメージを抱か