世にハイボール・ブームが巻き起こってから久しい。最近はどこの居酒屋にいっても角ハイをソーダだのコーラだのジンジャエールだので割ったものがメニューに並んでいる。けれども、ハイボールの流行とウイスキーの流行とはまるで別であって、ハイボールが流行っているからといって、飲み屋のメニューにスコッチが並ぶわけではない。あくまでそれはそれ、これはこれ。いまでもウイスキーという飲み物は、高価で、スノビッシュなのだろう、と思う。「本当のウイスキーとは、シングル・モルトのことだけだ」だとか「ウイスキーはやっぱりストレートで味わわなければ」だとか、さまざまな流儀がまことしやかに伝えられ、足を突っ込んだらなんだかめんどくさそうな感じである。穀類から作る飲み物であるため、出来が安定し、ワインのように「畑」だの「製造年」だのの話が出てこない分、まだマシかもしれないが、本書『ウイスキー銘酒事典』を読むと、味わい方やその味の表現の方法はまるで同じであって「うるせぇ! 酒ぐらい黙って飲め!」と思わなくもない。
しかし、そうした薀蓄やペダンティックなほどに伝わらない表現がつまった飲み物というのはそれはそれで興味深いものであって、本書で紹介されている酒のラインナップを眺めていると、珍しい動物の図鑑を眺めているときと同じような好奇心が沸いてくる。2002年に出された本なので少し情報が古くなっているのと(書いてある値段が今よりもちょっと高い)、「日本のウイスキー・メーカーから金もらってるだろう!」と疑いたくなるぐらい国産ウイスキーに多くのページが割かれているが、面白い本だ。この本自体がいわゆる「ウイスキー通」と呼ばれる人たちの世界を体現している、と言っても良いのかもしれない。例えば、本の半分ぐらいがスコットランドのシングル・モルトについての紹介になっている。「ウイスキーと言えば、スコッチ。スコッチといえばシングル・モルト」この三段論法的お題目は本書でも採用されているのだ。
飲み方はシングル・モルトならトワイス・アップ(ウイスキーと冷えすぎてない水を1:1で割って、氷をいれない)、バーボンならストレートかロックで、というのがひとつのパターンとなっている。これはもう好き好きだと思うんだけれども、ウイスキー初心者がその深遠なる(笑)ウイスキーの世界へと足を踏み入れるための、ひとつのとっかかりにはなるかもしれない。いきなりウイスキーをストレートで飲んで「喉が焼ける~」と、苦手意識を持つのも損な話だ。ハイボールからウイスキーの世界へ、というのには、なんだか高い壁がありそうだけれども、ひとつの「ご参考」として役に立ちそうである。「勿体無い!」と内心思いつつも、アイラ・モルトでハイボールを作ってみたりすると、一気にのめりこんじゃったりするかもしれないですよ。
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