岡倉の史観がなかなか面白くて、とにかくアジアはヨーロッパと比べたら弱っちくてダメである、それがなんでなのか、この暗黒状態を彼は「亜細亜の夜」と呼ぶのだけれども、なんで亜細亜は真っ暗なのか、と冒頭はそんな話から始まる。最初、日本の話から始まらないのね。中国とかインドとか、19世紀には随分ヨーロッパの国々にひどい目にあわされた。その元凶は、モンゴルが悪い、と。そこまで遡るのである。チンギスハン、コイツのせいでそれまでの文化がズタボロにされちゃったよ、と。おかげで彼らは統一を失っていたので、ヨーロッパにも付け込まれちゃったのだ。
で、日本はどうかというと、モンゴルには征服されなかったけども、侵略は受けた。これはある種のアレルギー反応というか「島国的偏見」を生んだと岡倉は言う。イエズス会の扇動によって起こされた島原の乱、そこからのキリスト教排斥なんかも、その世界から孤立したいという欲求の表れなのだ。それで、独特の文化が育まれたとはいえ、270年ぐらいの鎖国のあいだは「生き埋め同様」だったのである。日本も亜細亜の夜の立派なメンバーになっていたのね。
で、そういう生き埋めだったのが、黒船来航から急に「やべーよ」みたいな激震が走って反省して変化が生まれたみたいな描き方になっていないのが、この本の面白いところ。内部から変化の声を岡倉は描いている。そこで重要になった思想は、徳川の学問所で授けられる朱子学を否定した古学派、そして進歩と知行合一を求める陽明学、さらに国学派による歴史研究による天皇への回帰。要するに、徳川体制反対みたいな思想が出てきていて、黒船来航からの変化もその延長にあるのだよ、ということであろう。
幕末の動乱期についての記述もかなり濃く書いてあって、そのなかで西郷隆盛を「我が国のガリバルディー」と評価してたりするのも面白い。終盤は、西洋から学んだことがどう日本に生かされてるのか、どういう目覚めを生んだのかが書かれているんだけれども、個人的には、西洋のものをガンガン取り入れていきまっせ時代の話よりも、その前の陽明学者の話だとかの方が興味深く思った。
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