クリント・イーストウッド監督作品 『J・エドガー』

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二九歳でFBI長官の座につき、四八年間その座に留まりつづけたジョン・エドガー・フーヴァーの伝記映画。近年のイーストウッド作品のなかでは異色とも思えるほど表面的な静けさが印象的な作品だったと思います。フーヴァーは暴力、無秩序、違法行為を憎む愛国者であり、守るべき秩序を守るためには暴力も辞さない、という内的な矛盾(その難しい人間性にはマイルス・デイヴィスを想起させられます)を抱えながら、FBIを強固な組織へと作り替えていく。そのストーリーはもっとドラマティックであっても良いと思われるのに、葛藤であったり、戦いであったり、という見せ場がほとんど画面上には現れず、水面下でおこなわれているように見えます。フーヴァーが実際に暴力に晒されるのはわずかにワンシーンしかなく、それゆえにそのシーンの破裂感は素晴しいものがあります。

劇中で使われる音楽もダンス・シーンでのジャズで、重度のジャズ愛好家であるイーストウッドらしいな、と思われましたけれど、J・S・バッハの《ゴルトベルク変奏曲》が使用されているのがとても印象的です。イーストウッドの作品でこれだけテーマがはっきりしているクラシック楽曲が使用されているのもあまり思いつかない。とくにイーストウッド自身で書いているスコアがいつもの明確なテーマをもたない、まるでブライアン・イーノのアンビエント・ワークのごとき楽曲ですから、余計に目立つ気が。

若い頃と晩年というふたつの時間軸を何度も交差しながら映画が進行していきます。その交差の瞬間の演出が毎回面白くて良かったですね。「はい、ここから回想ですよ〜」という感じで進むのではなく、毎回ちょっとした仕掛けがある。晩年フーヴァーがエレベーターに乗って、ドアが閉まる、次にドアが開くと若くなってる! みたいな演出は、まるで魔法のエレベーターのようで楽しい。晩年時代のシーンは役者が特殊老けメイクをすることで撮影されていますが、クライド・トルソン役のアーミー・ハマーなんかまだ二五歳なんですよね。そんな歳で死にそうなジジイ役かよ! と思うんですが、でも良いんですよ。ディカプリオ以上に良かった。

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