安倍 晋三
文藝春秋
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それで、この『新しい国へ』(これを2006年に出版された『美しい国へ』を、首相の座に返り咲いたタイミングで増補した本)を手に取ったのだけれど、なかなかに面白い本である。読むと複雑に思われていた安倍晋三のパーソナリティーがスッキリと理解できると思うし、現在の日本の問題点も極めて簡潔にまとめられている。多忙な政治家にこれほどちゃんとした本を作る暇がないだろうから、これは極めて優秀なゴースト、極めて優秀なスタッフによって書かれているんだろう。
とくに、安倍晋三 = ファシスト・軍国主義者的な批判をしている人は、ちゃんとこの本を読んだ方が良いようにも思う。安倍 = ファシストとして批判する人にとって、彼は「戦争がしたくてたまらない人」として解釈されているように見える。けれども、そもそもその理解が間違っているのではないか。「戦争がしたい」わけではなく、安倍晋三のなかには「戦争ができる国、武力行使ができる国であるのが『当たり前の国』」という戦後の偉い自民党の政治家たちの意思が引き継がれているのだ。そういうわけだから「あんたは戦争がしたいんだろう!」、「そんなにも人殺しがしたいのか!」という批判は、ほとんど意味がない。それは「私を正しく理解していない」的に受け流されるだけであり(こういう受け流しは、本書でかなり多く出てくる。マスコミや野党は自民党を、安倍晋三を正しく理解していない、的外れな批判である、と)、安倍晋三の改憲への意欲に対抗するのであれば「武力行使ができない国でも『当たり前の国』である方法があるだろ」と唱えなきゃいけないんじゃないか。
悪い影響しかないのにも関わらず靖国参拝にこだわっているのか、という疑問も本書で融解した。ここでは裁判の結果や歴史的な経緯をたどりながら、靖国参拝の正当性を熱く語っている。その正当性が外国で承認されていないのにも関わらず、参拝しているから問題が起こるのは当然なのだけれども、参拝の是非を置いておいて、安倍議論で感心してしまう部分もあった。靖国参拝を是とする安倍のなかに、戦前と戦後の日本人を連続的に考える意識を見いだすことができるように思われたのだった。ほら、戦争のことを反省する場合、「軍部の暴走だ」とか「戦中の日本人はバカだった」とか、まるで他人ごとのように語られることがあるじゃないですか。まるで戦中・戦前の日本人は、戦後の日本人とは違う人間であるかのような口ぶりが。靖国を参拝する安倍晋三は、そういう風に戦前と戦後を切り離してはいないように思われ、わたしにはそういう意識のほうがフェアなものに思われるのだった。もちろん、悪い影響しかないのに参拝してるのはバカなんじゃないか、と思うんだけれど。
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