Svetlana Alpers
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イタリア絵画との対比をしばしば加えながら、アルパースはオランダ絵画における「世界を捉ようとする欲望(博物学的な欲求)」を見出していく。そこではケプラーの光学理論やフランシス・ベーコンの分類学に共感を得ていたオランダの知識人や芸術家が顧みられ、また地図製作者たちのポリシーが、オランダの画家と共鳴していることが主張される。掲載されている図版のなかには、ロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている作品が数多くあり、今年のイギリス旅行のまえに手をつけておけば良かった、というのが個人的な反省点。本書が提示するオランダ絵画における博物学的な欲求については、ダストン&パークの『驚異と自然の秩序』にも通じている(この本でも、フランシス・ベーコンは重要な思想家として扱われているのだった)。
博物学的欲求からやや離れたテーマが扱われる第5章「Looking at Words: The Representation of Texts in Dutch Art(言葉を見る: オランダ絵画におけるテクストの表現)」もまた面白く読んだ。イタリア絵画に描かれる題材は、例えば聖書の一場面であったり、神話の一場面であったり、と画面から物語のテクストが読み取れるものだ。それに対してオランダ絵画における静物画であったり、風景画であったり、あるいは民衆の生活の一場面を切り取ったものであったりには、そうしたテクストを読み取ることはできない。もちろん、ヴァニタスのように寓意的な静物画があるものの、そうしたテクストの不在(なんというか、こういう言い回しをするだけで現代思想っぽいが出る)がまたオランダ絵画の価値を貶める要因でもあった。これに対して、アルパースは17世紀オランダ絵画の画面に書き込まれたテクスト(絵画から読み取られるテクストでなく、画面上に現れたテクスト)の機能や、(現存するフェルメールの絵画で描かれているような)手紙という題材について着目する。テクスト不在の絵画のなかから、テクストを発掘するのである。
このうち、手紙という題材の解釈は、何年か前に渋谷のBunkamuraで開催された企画展「フェルメールからのラブレター展」を想起させる。振り返るとこの企画展で紹介されていた17世紀のオランダの手紙事情(フランスで書かれた手紙のお手本集がオランダ語に翻訳されベストセラーになっていた、とか)や意味付けは、まるっきりこの本から引用していたんじゃないか、という気づきがあった。こうした彼女の読解方法は「ニュー・アート・ヒストリー」という概念の提唱であるらしい。読んでいるうちに「これも新しい解釈学、別なイコノロジーに過ぎないのでは……」という気にもされられるのだが、大変刺激的な本だった。以前にディディ=ユベルマンの本について書いたときに告白したとおり、絵画のような視覚文化には、アウェー感を感じるところではあるのだけれど、引き続き、ゴンブリッチなどの(アルパースからすればオールド・スクールな)美術史についても勉強していきたい。
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