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アファナシエフはいつのまにスターになったのか?




ムック Piano&Pianist 2008 ピアノ&ピアニスト 2008 (ONTOMO MOOK)
音楽之友社
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 2008年になってもクラシック・ブームの余韻みたいなものがあるのか、書店でクラシック関連の本が目に付く。音楽の友社からはピアニストに関する記事だけを集めたムックが出ている。これはパラパラ立ち読みしただけだが、チケット発売直後にソールドアウトしてしまうような大御所&人気ピアニスト(ポリーニとかアルゲリッチとか)だけでなく、故人である古いピアニスト(一番古い人でブゾーニやラフマニノフの名前がある!)や情報が入ってきづらい若手ピアニストの情報まで網羅したなかなか読み応えがあるムックだった。また、先日新幹線に載っている間の暇つぶしに『Esquire』を買ったのだが、それにも「ピアノ音楽」の特集が組まれることが予告されていた。やはり「のだめ効果」なんだろうか。


 そんななか気になったのはワーレリー・アファナシエフというピアニストの扱いについてである。音友のムックでも最初のほうに取り上げられているし(もっともこの本はピアニストがアルファベット順に並んでるからだったりするのだが)、『Esquire』の次号予告にも彼の名が載っている。何年も彼の音楽に触れてきた立場の人間としては「これはどうしたことだろう?!」と不思議に思わざるを得ない現象だった。アファナシエフといえば「クラシック界のカルト・ヒーロー」みたいな存在だったのに……。



鬼才アファナシエフの軌跡9 リスト:ピアノ・ソナタ
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 アファナシエフはこれまでほとんど異端者扱いされてきたピアニストである。ピアノを真面目に弾いていたことがある人に限ってグールドの演奏がダメだったりする傾向があるが、おそらくアファナシエフについても同様の傾向が認められよう。異常なテンポの遅さ。この個性が、このピアニストが正統派志向からの受容されることを妨げているように思う。


 これについて彼自身は「自分の音を聴いていると、テンポが遅くなってしまうのだ。それは私にとって自然なことなのだ」と語っているのだが、演奏者以外の聴き手からすれば自然ではない。特にリストのピアノ・ソナタ。普通30分程度で演奏されるこの曲が、40分以上かけて演奏される。これは音を意識させる、というよりも音と次の音の間にある沈黙を意識させるような演奏である(ちなみにこの曲でもっとも速い演奏とされているのがアルゲリッチの録音で、彼女は約27分で演奏してしまう)。


 技巧的にもそこまで特別優れているわけではない。よく聴くと速いパッセージや激しい跳躍がある箇所で、あきらかにアコーギクとは思えないタッチのバラつきがある(これもピアニスト的聴衆から敬遠される要因だろう)。それでもなお、彼が「鬼才」としてカルト的人気を博していたのには、演奏の強い物語性があったと思う。これはむしろ音楽的センスというより、文学的センスによって読まれるべき要素である。



鬼才アファナシエフの軌跡2 アファナシエフ・プレイズ・モーツァルト
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 何より興味深いのは、彼の「誤読」とも呼べそうな音楽/作曲家解釈だ。アファナシエフは、ブラームスの、リストの、モーツァルトの楽譜から「作曲家」を読もうとしない。彼が読み、そしてあらたに描く物語が、ほかの演奏家が描くそれとはまったくことなっていることは演奏をジャケット写真にも現れているように思う。このジャケットで誰がモーツァルトのCDだと想像できるだろうか?


 一言で言えば「変人」である。その彼が、ハードコアなクラシック音楽雑誌の小さな記事ではないところで扱われていることに、やはり驚きを隠せない。これは喜ぶべき事態なんだろうか。毎年のようにちゃんと来日してくれるピアニストなので、そういう地道な活動が実った成果なのかもしれない。どうせなら、同じく「鬼才」であるアナトール・ウゴルスキにもスポットを当ててほしいとか思ってしまうが(こういうのはオタク的なわがままだ、ともいえる)。



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(Youtubeで見つけたアファナシエフの演奏。これは結構普通の演奏)





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