雲田はるこの話題作『昭和元禄落語心中』の既刊を読む。落語をテーマにした漫画はすでにいろいろとあり、ストーリーの骨格部分もとても既知感があります。「身寄りのない主人公が、○○を生き甲斐と決めて道を歩み始めようとする」という冒頭部分(○○のなかには、落語、が入る)、あるいは2巻から始まる「ラディカルで破天荒な天才」と「クールな秀才」というライヴァル・親友関係の因縁話は、なにかのテンプレートにハマっていると言っても過言ではないのですが、とても面白い! 妻が読んでいたのを借りたのですが「これはベテランの作家さんなのですか?」と訊ねたくなる古い少女漫画ライクな絵柄も魅力的ですし、またその絵柄にはラインの美しさ、というか、手塚マンガに出てる女体にグッとくる感じというか、そういう艶っぽい魅力を感じます。もともとはBLから商業デビューをした作家さん、という前知識を仕込んでしまうと余計に、男同士の絡みにも艶やかさを読み取ってしまいそうになる。
伝統であるとか、風習であるとか、とても落語について勉強されて描かれており、そこには現実の落語界でおこった歴史がモチーフになっているのでは、というのも感じられます。「落語が生き延びるために、伝統を破壊する」というラディカルな登場人物の思想には立川談志が宿っているでしょうし、戦時中古今亭志ん生も満州へ慰問芸人として渡っている。物語における「現代」が昭和のいつなのか明示されていないのですが、推測するに落語教会分裂騒動もエピソードに含まれてきそうな気配もあったりするのかな。落語で使用する太鼓の音が、物語内で起こった音ではなく、テンポを煽ったり整えていく効果音として物語外から挿入されていく演出も面白く、セリフ回しにしても、落語的なスピード感を感じますし、とても音声的/音楽的な漫画だと思いました。続きが愉しみです。
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