出演村治佳織をライヴで観るのは、たぶん2度目。ここ数年、鎌倉芸術館では村治佳織をパーソナリティ役としてさまざまなゲストともにライヴをやる企画を続けていたそうで、今回はその4年目。3年前のプログラム、テノールのヤン・コボウとの《冬の旅》は別な会場で聴いていました。今回はグスターボ・デュダメルが指揮していることで有名なシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラの首席奏者たちによる弦楽四重奏団と共演。今回は、村治佳織のソロ、弦楽四重奏のみの演奏、そしてギターと弦楽との五重奏と多彩なプログラムで構成されていました。
村治佳織(ギター)ゲスト:シモン・ボリバル弦楽四重奏団
曲目
ドヴォルザーク: 弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 op.96「アメリカ」(**)
タレガ:グランホタ(*)
ボッケリーニ: ギター五重奏曲 第4番 ニ長調 G.448「ファンダンゴ」(***)
マーラー:アダージェット 交響曲 第5番 嬰ハ短調 第4楽章(映画「ベニスに死す」テーマ曲) (*)
カステルヌォーヴォ=テデスコ:タランテラ(*)
カステルヌォーヴォ=テデスコ:ギターと弦楽のための五重奏曲 op.143(***)
*) ギター・ソロ
**) 弦楽四重奏
***) ギター+弦楽四重奏
シモン・ボリバル弦楽四重奏団は、やはり見た目のインパクトがスゴいな、と。かなり微妙な発言ですけれど、クラシックの世界の圧倒的マジョリティは、白人、なんですよね。南米系の人や、あるいは黒人の演奏家を観たときのこのインパクトは、日本人は名誉白人みたいに振る舞っている意識をあぶり出してくれるようにも思いました。もしかしたら日本人が西洋のクラシックをやっていることだって、奇異に思う人だってたくさんいるかもしれないのに。で、そうしたマイノリティである演奏家を観たときに、自然と、なにかエキゾチックな(南米系であれば)ラテンのノリのようなものを期待してしまうのですよね。そうした期待を彼らがちょっと裏切ってくるのが面白いな、と。
具体的には、シモン・ボリバルの4人はめちゃくちゃ濃厚・爆演系のヴィジュアルなのに、キレイに整えられたフレッシュな音楽を聴かせてくれるところが意外でした。若者の音楽、という感じで内容の深さには欠けるんだけれども、これからどうなるんだろうか、という期待を持たせてくれる。あと、音がデカい。演奏内容とは離れますが、久しぶりに《アメリカ》を聴いて「ドヴォルザークってこんなにヴィオラに弾かせる人なんだな」とか思ったりして楽しかったです。村治佳織のソロでは、マーラーの編曲モノが面白かったです。「アダージェットをどんな風に……?」とちょっと期待していたんですが、原曲の爛れた感じの、不健康なロマンティックな感じが払拭されて「クラシック・ギターの楽曲」に生まれ変わっている感じが良かったですね。
ただ、共演の方はうーん……。まず前半のボッケリーニですが、これは当時のパトロンだった人がギターを弾くだったため、ボッケリーニ自身のチェロと共演できるように書かれたものだったそうで、ギターよりもチェロのほうがフィーチャーされる楽曲でした。ギターはほぼ添え物でしたね。チェロが謎の超ハイポジを要求されるところがちょっと面白かったですが、曲自体が珍曲の域をでないのでは、という。後半のテデスコはさすがにギターがほぼ添え物、ではなかったですが(ギターの重要な定番曲を書いている作曲家ですし)、やはりギターの音量の問題があって、イマイチその共演を堪能できませんでした。ギターの音量はスピーカーで少し補強されていたのですが、それでも弦楽四重奏がフォルテで演奏しているとほとんど聴こえなくなってしまう。楽曲自体は、テデスコと同様に第二次世界大戦でアメリカに亡命し、ハリウッドで活動したコルンゴルトの作風と共有される、世紀末のロマン主義をひきずった魅力的な楽曲であったので少し残念。
前回観た時もそうでしたが、村治佳織は演奏の合間などにMCをいれるなどクラシック・コンサートの一般的な慣習とは違う「初めてクラシック・ギターを聴きにきた人にも楽しんでもらえるようなホスピタリティ」を発揮されていて、こういう演奏活動スタイルがあっても良いのだなあ、と感心させられます。そういう活動をする人がもっとたくさんいても良いのかもしれない。ドヴォルザークの弦楽四重奏の楽章間で拍手が起こってしまう、など慣習的には控えるべきであろうことがこの日も見受けられたんですけれど、でも拍手が起こってしまったのは必ずしも悪いことではないでしょう。「それはマナー違反なのですよ」と目くじらを立てることが果たして正しいのかどうか……とか考えさせられます。
村治佳織
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