澤井繁男 『魔術と錬金術』

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魔術と錬金術 (ちくま学芸文庫)
沢井 繁男
筑摩書房
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イタリア・ルネサンスの思想家の本を多く翻訳している澤井繁男による魔術と錬金術に関する概説書を読みました。本書は1989年に出版された『魔術の復権』(人文書院)と、1992年の『錬金術』(講談社現代新書)を合本したものだそう。第一部の魔術編と錬金術編で内容に重複する部分があったりするのですが、初めて「ルネサンス期の思想家ってどんな人がいたんだろうな〜」と知りたい人(どこにいるかはまったくもって不明!)とかには良い本なのかな、と思いました。文庫になったのは2000年で、もうすでにちょっと古い本になりかかってる感じもなきにしもあらず。ここ最近のルネサンス・初期近代の研究については、古典的名著の翻訳や日本人研究者による非常にクオリティの高いモノがかなりでていることもあって、あえてここから入らなくとも良いのかも、という。

例えば「魔術」パートで扱われている人たちは、イエイツの『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス主義の伝統』ともろにメンツがかぶっていますし、記述の内容的にもイエイツの内容のほうが濃くて面白い。イエイツの本は第10章まで、ジョルダーノ・ブルーノという人が登場するまでイタリアでヘルメス文書や新プラトン主義、カバラ数秘術がどんな人によってどんな風に扱われたかを延々とみていくわけですが、それは思想家ごとの線的に辿る発展史的なものでもあるわけです。澤井による記述にもそうした線的スタイルがあるんですけれど、一本の強いストーリーがあるわけではなく、途中で思想家ごとの比較がいろいろと入ったりして縦展開だけじゃなくて横展開もある。○×を使った表や、イメージ図を使ったりして分かりやすい説明をしようという努力がここでは見られるんですが、読んでて「え、こんなに平明に整理できるの?」という部分がそもそもひっかかってしまいますし、えーっと、端的に言ってなんか面白くない!! これをたまたま手に取った人が「魔術、面白い!」と思わないだろ! というのが率直な感想。

これはもしかしたらマーケティングな失敗かもしれず、この手の神秘主義とかルネサンス思想とかって大抵、澁澤とか種村とか、高山宏とか、コアで衒学的な人から入ってくる人が多いと思われ(私はそうじゃないんだけれど)、そういう人がこういう平明な記述にグッとくるかと言ったら、たぶん物足りないと思うし、これをキッカケに「魔術ヤバい、錬金術ヤバい」ってなる人もあんまいないのであれば、果たしてこれは誰に向けて書かれた本なのか、という。ソーンダイク、カッシーラー、ガレン……etcというブックガイド的な部分は、個人的にはちょっとありがたいなと思ったけれど、平井浩さんはずーっとインターネット上でそういう活動をされているわけで……。

ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統
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たしかに『魔術と錬金術』は安くて手軽な本だけれど、イエイツとか井筒とか読んだ方がこの手の話はグッと面白い! と思えるのでは、というのが私の感想でした。思想史に限らず、歴史関係の本は単に分かりやすいだけでは面白い本にならず、分かりやすくて面白くないと成功しないんじゃ、と思う。そうした意味で記述のスタイルとか、ポイントのしぼり方とかは重要だと思わされました。

2 件のコメント :

  1. 基本的には、カンパネッラを中心とするイタリア文学の専門の人だと思いますが、入門編と言えど『錬金術』について付け焼き刃的な中途半端な読書ノートをそのまま一冊の本として出版してしまうのは、本場で錬金術の歴史を徹底的に叩き込まれた僕としては、戸惑いを感じてしまいます。それが、使用法に注意としたココロです。

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  2. 分かる気がします。結局のところ、もう古い本なんですよね。もっと深くて面白いストーリーがあるなら、そっちを読んで欲しい、という感じがあります。

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