著名な建築家による都市景観論を読みました。本書は、日本と諸外国における家の観念の違いにはじまり、生活様式や利便性を確保しながらどのような街並みがあるべきか、そして街並みの美しさとはそもそも何なのかを検討する内容となっています。建築様式の発展は機能主義的に説明され、哲学をもって人々の暮らしを捉えつつ、美しさをゲシュタルト心理学によって規定しようとするなど説明が簡潔で読みやすい。その一方で「ゲシュタルト心理学的に街並みを考察すると、人間はその街並みの構成を『図』として認識できると美しいと思えるらしい」(大意)というところから、雑然とした日本の都市は「『図』として認識がしにくい、ゴミゴミしていてダメ」とバッサリ切り捨てていく展開は、素直に飲み込むことができませんでした。
本書の基本的論調として、西欧の諸都市にあるような昔からあった街並みを保護した景観は賞賛され、戦後日本の街づくりはことごとく批判の対象となるというのがあります。そのなかで京都の町家だけが何度も素晴らしい伝統として持ち上げられているため、高度成長最低、伝統万歳、みたいにも読めてしまう。書かれたのが70年代末ですから、オイル・ショック以降ですから戦後日本の経済発展を反省するのが一種の知的なブームだったのかもしれません。しかし、日本人には雑然として見える景観でも、外国人にとってはエキゾチックに見えて良い、ということだってあるでしょうし(ソフィア・コッポラが撮影した新宿の夜景を見れば、外国人旅行者が東京のなにを見ているのか、を想像することができます)、東京のインフラの新しさ・清潔さはヨーロッパと比べたら好ましいと思えます。
また、ル・コルビュジエの設計を形式美学に拘泥するあまり人間性を失っている、と批判する一方で、機能ばかりではなく、余裕をもった歩道作ったり、街路樹植えたりして、もうちょいキレイで人にやさしげな都市を作れたら良いよね! と曖昧な価値観の提示しかできていないのは、なんとも。利便性や経済的合理性、あるいは環境への配慮などなど都市の形成にはさまざまな要素があると思いますが、何をどんな具合でやったら良いのかも本書では示されません。「もうちょい計画して街を作れ!」というのは何となく伝わりますが、計画都市の苦戦を考えると、計画して作ってもそこに計画した通りの生活は生まれるのか? と思います。
……と、内容にやや不満を感じてしまう本ですが、価値判断の妥当性をひとまず横において世界の都市の比較を読むのは面白かったです。特に、日本の大都市には、建物のファサードを見れるような空間が設けられていない、という指摘は、たしかに〜、と思いました。
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