E.H. Gombrich
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金持ちのパトロン活動って、利得感情が働かない趣味の世界の話であり、芸術に理解がある = 徳が高い人物、みたいな理解のされ方をすると思う。しかしながら、この2本を読むとゴンブリッチが真に芸術に関心をもった人物として評価するコジモ・デ・メディチにしても、その建築に対する支援活動と関心は、教会に対する自らの威光を高めるための世俗的な意図が働いたものだということがわかる。要するに現代の企業メセナとあんまりレヴェルが変わんないのね。
この2本は、とにかく立派なパトロン、芸術の庇護者としてのロレンツォ像を書き換えようという記述が面白い。たとえば、ロレンツォは祖父と同様に建築に興味を持っていたけれども、彼の場合は「俺は建築にものすごい理解があるんだ」という自負があったらしく、フィレンツェの建築計画をコントロールしようとしたり、現代では名だたる巨匠として語られる芸術家が参加したコンペで自分の案を最良のものとして採用しようとしたり、とジャイアンばりの権力を振るっていた。なんだかムッソリーニみたいである。
また、メディチ家の芸術・工芸品コレクションの当時の価値に関する記述も面白く読んだ。メディチ家が画家だとか建築家だとかを育てた、みたいな話になってはいるとはいえ、当時彼らが一番高価で価値があると考えていたのは、絵よりも彫刻を施した宝石類だとかだったそうな。で、そうした宝石類は400フロリンから1000フロリン。このTazza Farneseは最も高いもののひとつで10000フロリンだったとか。
Tazza Farnese。紀元前2世紀ぐらいのカメオとのこと。 |
メディチ家といえば芸術家たちだけではなく、プラトン・アカデミーを主宰して人文主義者を育ててもいる。フィチーノなんかは大変メディチ家に大変お世話になっていて、せっせとギリシャ語の文献をラテン語に翻訳しているのだが、これもゴンブリッチによれば「当時のギリシャ語の本なんか宝石や絵画よりもずっと安いし、学者に払う報酬なんかも芸術家よりずっと安く済んでいたんだから大した出費じゃなかったハズ」といったところになる。
芸術だとか人文主義だとかはメディチ家にとって、あくまで余技みたいなものだった、ということなのか。そう考えると、近現代のパトロンのほうが立派にも思えてくる。MOA美術館作った岡田茂吉とかね。
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