ガブリエル・ガルシア=マルケス『エレンディラ』

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エレンディラ (ちくま文庫)
ガブリエル ガルシア・マルケス 鼓直 木村栄一 G. ガルシア・マルケス
筑摩書房 (1988/12)
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 作家には短編向きの人と長編向きの人がいて、そのどちらにおいても類まれな才能を持っているタイプの作家というのはそんなに多くない。パッと思いつくのはヘミングウェイぐらいだろうか――これまで、ガルシア=マルケスの作品を幾つか読んでいて、そんな風に考えていて「この作家は、長くないと良さがでないのかなぁ(ピンチョンみたいに)」と思っていた。『百年の孤独』が飛びぬけて面白く、短編集『青い犬の目』や『予告された殺人の記憶』などは面白いけどそこまで……という感じだった。しかし、この『エレンディラ』という短編集を読んでから印象はガラリと変わってしまった。ガルシア=マルケスの短編、面白い!


 もともと私は神話性や幻想性といった小奇麗にまとまって評価される点においてガルシア=マルケスに惹かれていたわけではなく、むしろその逆で、描写から想像される汚さや人々の体臭のキツそうな感じに惹かれていたのであるが、『エレンディラ』に収録されている短編はどれもその「噎せ返るような汗臭さ」が濃厚であると思った。昔、大槻ケンヂがエッセイか何かでエミール・クストリッツァの『黒猫・白猫』という映画を「最近みた面白くなかった映画」に挙げていたんだけれども、大槻がつまらないと思ったポイントに「登場人物が全員、歯が汚い」というのを指摘していて、その「歯が汚い感じ」みたいなものを想像する。音楽を文章で表現するとき「グルーヴ感が……」とか言うけど、ガルシア=マルケスのこの短編集には「歯が汚い感」が力強く書かれている。たぶん、着てるシャツの襟の部分なんかベットリと茶色い変色しているに違いない。


 最初に収められた「大きな翼のある、ひどく年取った男」という作品からして最高だ。この作品は「ある日ベラーヨという男が海辺にいったら、なんか汚い格好をしたジジイがいて、なんか知んないけどそのジジイにデカイ羽がついていて……」みたいな奇妙な昔話みたいに始まるのだが、その後の物語の転がり方がホントに面白い――「この羽ついてるジジイ、何ものだろう」と思ったベラーヨは、近所に住んでる長老的ババアを呼んできて「これは天使に違いない!」とか言われちゃうところは、落語みたいである。あったよね、川で洗濯してたらヤカンが流れ着いて「これはなんだべ?」――「兜だ、兜」みたいな話。


 その後は実際に読んだほうが面白いと思うので、説明を省くけれども(面白いから全部書きたくなっちゃうので自粛)「ノーベル文学賞」という立派な賞をもらった作家がこんな最高に笑える話を書いて良いのか、などと思ってしまう。こんなに笑えて、しかも美しく、テンションが高い短編集は他に無い。予断だけれど、中原昌也の短編も同じぐらい面白いと思うので彼にもノーベル文学賞をあげれば良いと思った。





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