アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』

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新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)

新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)






 なんだか物々しいタイトルの本だが、別に黒魔術の本でもデーモン小暮閣下の著作ではない。100年ぐらい前のアメリカで活躍していたジャーナリスト兼小説家、アンブローズ・ビアスによる辞書の形を模した箴言集である。このビアスという人物、メキシコ革命時に先頭へと加わるためにわざわざアメリカから単身メキシコに乗り込んで、そのまま行方不明となった……という曰くつきの人なのだが*1、この箴言集は悪趣味と紙一重な皮肉が利いていてとても面白かった。


 例えば「人間」もビアスに言わせればこんな風になる。



自分の心に描くおのれの姿に、恍惚として眺め入っているために、当然あるべきおのれの姿が目に入らない動物。その主要な仕事は、他の動物たちのほかに、おのれの属する種族を絶滅しようとするにあるにもかかわらず、人間なる種族は、とめどもなく、しかも急速に増加して行き、地球上、棲息可能な場所ならいかなる場所にも、カナダにさえも、はびこるまでに至っている。



 『悪魔の辞典』では延々とこのような人を食ったような文章が続く。こういう回りくどさのなかに秘められた毒が、トイレやベッドの脇に置いてパラパラめくるにはちょうど良い。熱く叫ばないでも届く、適温の「社会批判」というか、そういう器用さをもった皮肉が言える人って今はあんまり見かけないよなぁ、とも思ってしまう。まぁ、皮肉が突き刺さる深さで言ったら、ビアスの深さはナンシー関の先祖だったんじゃないか、って思えるほどだけれども。




*1:メキシコの作家、フエンテスが彼を題材に小説を書いている





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