指揮:シルヴァン・カンブルラン今シーズン最後の読響定期はカンブルランによるマーラーの交響曲第6番。ここまでさまざまな名演を聴かせてくれたマエストロが西洋音楽史上でも最大級の大作を振るということで期待が高まらないわけがないんですが、結果は期待をはるかに超える演奏会だったと言えましょう。正直に申し上げるとあまりに濃い内容に終演後、言葉もない疲労感に包まれつつ会場をあとにすることになったのですが、いやはや、素晴らしかったですね。
曲目:
マーラー:交響曲 第6番 イ短調 「悲劇的」
カンブルランは、テンポが速いとか遅いとか、ダイナミクスがものすごいとか、そうしたわかりやすい音楽への性格づけによって聴取を驚かすタイプの音楽家ではないでしょう。伝統的巨匠タイプのカブキ方でなく、とにかく引き締まった音楽を聴かせてくれるのはこの日も同じでした。しかし、そこにいくつかの仕掛けを仕込んでくるのが小憎いところでありまして、今回は弦楽器の配置を変えた第1・第2ヴァイオリンの対向配置が視覚的にも印象的でしたが、その効果は1楽章序盤の第2ヴァイオリンのピッツィカートでいきなり「あ!」となる。
12月にマーラーの第9番を聴いたとき「なるほど、マーラーとはこういう響きの音楽だったのか」とそのスペクタルな音風景に生で触れて驚かされました。やはり今回初めて第6番を生で聴いて同じような驚きがありましたけれど、その大きさは今回のほうがずっと大きい。まるで悪ふざけのように中断や挿入がおこなわれるマーラーの音楽を、世紀末ウィーンのサウンドスケープに重ねた渡辺裕の優れた評論を思い出さずにはいられなかったです。どう「しっかりと」「整えられた」演奏をしてもノイジーな、ザワザワとした音楽になってしまう。不調和の調和、反対の一致……などと不用意にクザーヌスの言葉を出してみたくもなりますが、この居心地の悪さがマーラーの音楽なのだな、とカンブルランに納得させられてしまった感がある。
オーケストラも良かったです。とくにテューバの次田さんは、最初なら最後までハッスルしまくっていて最高でしたし、全体的に音色の豊かさを愉しむことができました。また、次シーズンからコンサートマスターをつとめるダニエル・ゲーデ(元ウィーン・フィル、コンマス)がコンマス席に座り、これも素晴らしいソロを聴かせてくれました。集団のなかでも彼ひとりの存在で第1ヴァイオリンの音色が、ウィーン・フィル風のブリリアントな音色を醸す瞬間があったと思います。次シーズンへの期待を繋いでいく演奏会でした(来シーズンは定期会員じゃないけど)。
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