P. O. クリステラー 『ルネサンスの思想』

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ルネサンスの思想 (1977年)
P.O.クリステラー
東京大学出版会
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パウル・オスカー・クリステラーという歴史家がどのような生涯を歩んだかについてはこちらのまとめが参考になるでしょう。本書は彼が1954年におこなった連続講義の記録に、それ以前の論文をくっつけた内容となっています。主旨としては、「ルネサンス」という概念が、「人間と世界の発見」の時代であり、近代と直接ひもづくようなメンタリティをもった人間が登場した時代である、と考えられてきたことに対する異議を申し立てるもの。ルネサンスは暗黒の中世を否定し、人間を中心にいろいろ考えていこうではないかッ、とか、そういう時代であった、と高校の世界史で習った人がいるかもしれません。クリステラーはこれに「いや、実はそんな単純な話ではないのでは?」と言うわけですね。歴史を描く際、過去を否定して、新しいものが生まれる進歩史観でストーリーを作るのはとてもわかりやすい。クリステラーが批判するルネサンス観とは、まさにそうした観点から作られたものであり、彼はそのわかりやすさゆえの問題を指摘している。

ルネサンスの思想家、人文主義者たちは、中世の人たちを否定したわけではなく、むしろ、その知的伝統のうえにルネサンスの知識人たちの営みもあったのだ、とクリステラーは言います。ここに過去からの革新ではなく、過去からの延長のルネサンスが描かれることになる。そうした歴史観に対して「では、『ルネサンス』という現象はなんだったのか? そんなものはなかったのではないか(クリステラーはその時代におきた新しい動きを軽視しているのでは)」という批判もあったようです。もちろん、ルネサンスは単なる延長ではなく、プラトン主義の復活や、異教の教義とキリスト教の教義の融合などの動きが生まれていて、本書では、そのような伝統の延長線上におこった新しい潮流が教科書的に説明されている。あくまで教科書的な記述ですので、細かいところを深く突っ込むわけではありません。それゆえの退屈さもあるのですが、もし初めてルネサンスの思想史に触れるのであれば、現在でも使える本だと思いました。これ一冊読めば、思想史の見取り図のようなものがおおまかにつかめるようになるハズ。

ちょっと残念なのは、人名の日本語転記がかなり雑。訳文が読みにくいわけではないのですが、マルシリオ・フィチーノが、あるときはマルシリウス・フィッチーノだったり、ホメロスだけホーマーになってたり、読んでて気になる点がいくつか。ちょっと古い翻訳ですから仕方がないのかもしれませんが、もし復刊されることがあれば出版社の方にはそのあたりを整えてほしいところです。

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