ウィリー・ヲゥーパー 『ボサノヴァの真実: その知られざるエピソード』

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ボサノヴァの真実: その知られざるエピソード
ウィリー ヲゥーパー
彩流社
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『リアル・ブラジル音楽』の著者がまたもや名著を! タイトルに偽りなく、ボサノヴァ誕生のエピソードとして語られる神話や、さまざまな誤解にメスを入れ、歴史を上書くような本でした。今日、ブラジル音楽といえば、カーニヴァルのサンバか、ボサノヴァか、という世の中であり、シャレオツなカフェや蕎麦屋、うどん屋などでもボサノヴァが流れておりますから「ブラジルの国民的音楽はボサノヴァ」、「ブラジル人は毎日ボサノヴァを聴いている」などと思いがちになるのも無理はないでしょう。しかし、ブラジルにおけるボサノヴァとは、1964年以降には下火になっており、その後もさまざまなミュージシャンによって参照されつつ生きている、ある種の「伝統音楽」として語られています。まず、この視点からして衝撃的ですが、あくまでボサノヴァを「サンバの一種」として捉え、MPBとは明確にジャンル分けがなされた音楽の紹介の仕方は、「とにかく聴いていかなければ、なにがボサノヴァで、なにがボサノヴァでないか」はわからないのでは、うおお、もっとブラジル音楽を聴かねば、というブラジル音楽の深さへの刺激的な導入を形作っています。

また、さまざまなミュージシャンに対して、とてもフラットな視線で評価がおこなわれていることも素晴らしい。ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンといった「ボサノヴァのパイオニア」として語られるミュージシャンが、実はパイオニアではなかった、としつつも、それによって彼らの音楽の価値が損なわれるわけではありません。アメリカで成功したミュージシャンを嫌う傾向にあるブラジル人によって、批難されたセルジオ・メンデスの扱いなどはとくに感動的です。それから「パネーラ」と呼ばれるブラジルの派閥社会の慣習によって区切られた、ミュージシャン同士の派閥が見えてくるのもとても興味深い。ブラジルの国民的女性歌手と呼ばれるエリス・レジーナが、当初ジョビンらに田舎モノとして馬鹿にされていたことを知ると、大名盤『Elis & Tom』もこれまでとは違った音楽のように聴こえるでしょう。単なるガイドではなく、関係者から得られたドキュメント本でもあり、大変濃ゆい音楽本です。

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