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メビウス 『エデナの世界』

『アンカル』 は復刊されているのだが、こちらの『エデナの世界』はまだ絶版みたい。メビウスのスピリチュアルSF漫画。かなり終わり方が投げっぱなしジャーマン的なのだが、ストーリーがウダウダしていない分、『アンカル』よりも好きかも。巻末に夏目房之介と浦沢直樹の対談がついていて、マンガとBDの比較論みたいな話があって面白かった。

アレハンドロ・ホドロフスキー(原作) メビウス(画) 『アンカル』

アンカル posted with amazlet at 16.08.07 アレハンドロ・ホドロフスキー パイインターナショナル (2015-12-18) 売り上げランキング: 47,863 Amazon.co.jpで詳細を見る ホドロフスキーとメビウスのコラボレーション作品、傑作バンド・デシネとして名高い作品として名高い『アンカル』を読む(昨年末に復刊されたみたい、ずっと読みたかったのでありがたかった)。なんかAKIRA、ガンダム、宇宙戦艦ヤマト、スターウォーズ、孔子暗黒伝(あるいは暗黒神話)、ナウシカ……と様々なものが全部この一冊に入ってるサイケデリック・スペース・オペラって感じでスゴかった。愛すべきダメ探偵が主人公、というのは、 ピンチョンの『LAヴァイス』 みたいだし……。

諸星大二郎 『海神記』

海神記 上 (光文社コミック叢書“シグナル” 6) posted with amazlet at 15.03.29 諸星 大二郎 光文社 売り上げランキング: 48,540 Amazon.co.jpで詳細を見る 海神記[下] (光文社コミック叢書〈SIGNAL〉 (0007)) posted with amazlet at 15.03.29 諸星 大二郎 光文社 売り上げランキング: 47,181 Amazon.co.jpで詳細を見る 諸星大二郎の『海神記』を読んだ。いやあ、これ上下巻で出ているもんだから、てっきりこの2冊で完結かと思うじゃないですか。まさかの未完でびっくりしちゃったよ。『諸怪志異』も途中でストップしちゃってますが、果たして、諸星大二郎はこういう途中で止まってる作品をちゃんと完結させてくれるんだろうか……。『西遊妖猿伝』がいまのメイン仕事なのだろうけれど……と、微妙な気持ちになったのは『海神記』がめちゃくちゃ面白かったからである。すごい。80年代初頭と90年代初頭に書き継がれたものだが『暗黒神話』や『孔子暗黒伝』、あるいは『マッドメン』といった代表作よりも面白いんじゃないのか。 物語は古代の日本。天変地異や干ばつにあえぐ人々が、海から現れた謎の子供に導かれ、東にあるという常世を目指す……というストーリーで、設定はいつもの諸星大二郎という感じなのだが、権力者たちが政治的な策略もいろいろと出てくるし、呪術によって勝敗が左右される戦闘シーンのダイナミックな描写など、異例のスケールの大きさだと思う。個人的にもっとも惹かれるのは、この作品で描かれている世界が「日本は単一民族の国」という観念を、完全に打ち砕いているところだ。さまざまな小国が林立し、国が違えば、信仰している神も違い、風習も異なる。多様な民族が謎の子供によってまとまって、怒涛の勢いを作っていくところがなんともロマンティックだ。大変だとは思うが、最後まで描かれてほしい物語だと思った。

雲田はるこ 『いとしの猫っ毛』(3)

いとしの猫っ毛3 (シトロンコミックス) posted with amazlet at 14.05.06 雲田 はるこ リブレ出版 (2014-04-23) Amazon.co.jpで詳細を見る 現状、BLは雲田はるこしか読まない(ブラック・ミュージックはプリンスしか聴かない、みたいな感じだが……)んだけれど、新刊も大変面白く読んだ。純愛はもはやBLのなかでしか描けないし、惚れた腫れたの物語が読みたかったらBLを読むしかないのかも、とか、そういうことを考えてしまう。

諸星大二郎 『夢見村にて: 妖怪ハンター 稗田の生徒たち』

夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち (1) (ヤングジャンプコミックス) posted with amazlet at 14.04.15 諸星 大二郎 集英社 (2014-02-19) Amazon.co.jpで詳細を見る 「妖怪ハンター」シリーズの新刊は10年ぶりらしい……。短編集やら西遊記原作の漫画やらがポコポコと知らないあいだにでている感じなので「諸星大二郎の新作が読めるなんて!」という感慨はとくにないのだけれども、還暦過ぎでこの仕事ぶりはやっぱりすごい、と思った新作。すごく面白かったし、やはり新しい作品になればなるほど、漫画が上手くなっているのが恐ろしい(これは今っぽいコマの見せ方を取り入れてる、ということなのかも)。しかし、ミステリーとしての話の見せ方とか、構成力とかもすごくて、表題作の「夢見村にて」(この作品、村上春樹っぽい設定だ)なんか「妖怪ハンター」シリーズのなかでも屈指の作品なのでは。

竹宮惠子 『地球へ…』

地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー) posted with amazlet at 13.07.15 竹宮 惠子 スクウェア・エニックス Amazon.co.jpで詳細を見る 地球へ… 2 (Gファンタジーコミックススーパー) posted with amazlet at 13.07.15 竹宮 惠子 スクウェア・エニックス Amazon.co.jpで詳細を見る 地球へ… 3 (Gファンタジーコミックススーパー) posted with amazlet at 13.07.15 竹宮 惠子 スクウェア・エニックス Amazon.co.jpで詳細を見る 70年代SF少女漫画の金字塔のひとつを、ガンダムと宇宙戦艦ヤマトとナウシカの要素が混ざったような話だな〜、と思いながら読む。メカニックなディティールについては一切触れられずストーリーが進行するもののメカ・デザインとかすごく良くて、かつ、終盤の戦闘シーンなんかイデオンやマクロスの戦闘シーンみたいでカッコ良いなあ、と。宇宙戦艦や宇宙戦闘機が強力なエスパーと戦闘を繰り広げるところとか、すげーカッコ良い。『童夢』ぐらい痺れるものがあるなあ……と、軒並み自分の知っているものの範囲で読んでしまったが面白かったです。 本作における徹底した管理社会 VS 新人類……という物語の構図は、目新しいものではなく、それこそオルダス・ハクスリーや、ジョージ・オーウェルなどの古典からくる「ディストピア小説」のフォーマットを踏襲している、と言って良い。そこでふと思ったのが、一体いつから管理社会が悪いものとして描かれるようになったのか、ということだった。例えば、 プラトンの『国家』 や アリストテレスの『政治学』 にだって立派な管理社会が構想されているし、 カンパネッラの『太陽の都』 もその流れをハッキリと継承するユートピア小説である。ガチガチの管理社会は、理想郷として描かれてきたハズなのに、歴史上どこかの時点でディストピアに転んでしまっている。この転倒がどこはじまりなのか、が今回『地球へ…』を読んでいて気になってきてしまった。管理されないのが人間的で素晴らしい的な、自由万歳的な機運によって、その転倒がおこ...

ヤマシタトモコの漫画を読む

HER(Feelコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ 祥伝社 (2010-07-08) Amazon.co.jpで詳細を見る ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ 祥伝社 (2011-04-08) Amazon.co.jpで詳細を見る ドントクライ、ガール (ゼロコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ リブレ出版 (2010-07-09) Amazon.co.jpで詳細を見る Love,Hate,Love. (Feelコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ 祥伝社 (2009-09-08) Amazon.co.jpで詳細を見る ひばりの朝 1 (Feelコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ 祥伝社 (2012-08-08) Amazon.co.jpで詳細を見る ひばりの朝 2 (Feelコミックス) posted with amazlet at 13.07.14 ヤマシタ トモコ 祥伝社 (2013-07-08) Amazon.co.jpで詳細を見る 知り合いの編集者より「ムカつくから読んでみて!」的なレコメンドをされ、ちょっとしたリサーチを兼ねてヤマシタトモコの漫画を読む。こういう漫画ってなんでしょうね、女性をメイン読者として据えているけれども、少女ではない、青年少女漫画、といったところなんでしょうか。『Her』、『ドントクライ、ガール』は2011年に『このマンガがスゴい!2011 オンナ編』で1位・2位選出されている作品。総じてヤマシタ作品には、女性性に自身が持てない、あるいは強い自己批判のまなざしが内在されているため、女性として上手く生きられない女性が描かれる。これは、今時の...

萩尾望都 『百億の昼と千億の夜』

百億の昼と千億の夜 (秋田文庫) posted with amazlet at 13.06.15 光瀬 龍 萩尾 望都 秋田書店 売り上げランキング: 21,880 Amazon.co.jpで詳細を見る 光瀬龍のSF小説を原作にした萩尾望都の大スケールSF漫画。これだけのスケールの漫画は、ひょっとすると手塚治虫の『火の鳥』か諸星大二郎の『暗黒神話』、『孔子暗黒伝』ぐらいかも。ちょうど『孔子暗黒伝』の連載期間と、本作の連載期間とがかぶっており(1977-78年)、テーマ的にもすごく近いものを感じる。そして、原作小説が雑誌連載されていたのは、1965-66年。この頃に「エントロピー」、「虚数空間」、「ディラックの海」といった学術用語のSFへの導入って、すでに普通だったんすかねえ。個人的には、こういうのって単なる言葉による世界観の飾り付け程度の意味しか感じられず、好みではないんだけれど(こういうとき、自分のSFへの不感症を自覚する)。 人間が、世界が、創造された意味をめぐってのSFからの回答とも言うんでしょうか。プラトン、仏陀、阿修羅、イエス、ユダが登場し、超越的な存在との闘争が描かれるんですが、その結論は物語のなかにでてくる宗教が説いていた救済や終末を裏切るものとして提示される。でも、なんですかね、本作での「最後の審判」であったり「弥勒の誕生」であったりは、あまりにも現世救済的なもののように思えてしまい、壮大な世界観の割に結構あっけないな……という感想を抱いてしまいました。宗教的な救済であったり、終末であったり、って本作で描かれる虚無的な結末と近いものなんじゃないのか、とか思うと、なにもこの物語では上書きができていない感がある。 宇宙のなかでの自分の存在の小ささに虚無を感じるのであれば、それは中2ぐらいで打ちひしがれておくべきものだろうし、逆に宇宙の大きさを感じで「宇宙やべぇ」とおののくには『Newton』読んでいたほうが良い。だから、なんかこの漫画(物語)に出会うのはきっと遅すぎたんだろうな、とも思いました。たしかに生きてて虚無っぽいけども、それでも生活って続くし、じゃあ、楽しい生活が良いよね、とかオッサンじみてくると思うんですよ……。

雲田はるこのBL作品を読む

窓辺の君 (MARBLE COMICS) posted with amazlet at 13.06.15 雲田 はるこ ソフトライン 東京漫画社 Amazon.co.jpで詳細を見る 野ばら (MARBLE COMICS) posted with amazlet at 13.06.15 雲田 はるこ ソフトライン 東京漫画社 Amazon.co.jpで詳細を見る いとしの猫っ毛 (CITRON COMICS) posted with amazlet at 13.06.15 雲田 はるこ シリカ編集部 Amazon.co.jpで詳細を見る いとしの猫っ毛 2 (CITRON COMICS) posted with amazlet at 13.06.15 雲田 はるこ シリカ編集部 Amazon.co.jpで詳細を見る いとしの猫っ毛 小樽篇 (シトロンコミックス) (CITRON COMICS) posted with amazlet at 13.06.15 雲田 はるこ リブレ出版 Amazon.co.jpで詳細を見る 新宿ラッキーホール (Feelコミックス オンブルー) posted with amazlet at 13.06.15 雲田はるこ 祥伝社 (2012-07-25) Amazon.co.jpで詳細を見る 雲田はるこのインタビューを読んで 、萩尾望都や竹宮恵子、手塚治虫の名前があがっており、この作家の絵柄についてなんだか腑に落ちるものがあったのだった。で、もっとこの人の漫画を読んでみたくなり、単行本化されているBL作品を一気に購入。そして、一気読み。BLというジャンルに手をだすのも初めてなんですけれども、そんなに違和感なくとても愉しく読む。なかでも昔の少女漫画っぽい絵柄で、趣味全開な『いとしの猫っ毛』は、萩尾望都の少年愛的なテーマをそのまま引き継いでるよう。

雲田はるこ 『昭和元禄 落語心中』(4)

昭和元禄落語心中(4) (昭和元禄落語心中 (4)) posted with amazlet at 13.06.13 雲田 はるこ 講談社 (2013-06-07) Amazon.co.jpで詳細を見る 女体のラインが素晴らしい……。

荒木飛呂彦 『ジョジョリオン』(4)

ジョジョリオン 4 (ジャンプコミックス) posted with amazlet at 13.05.19 荒木 飛呂彦 集英社 (2013-05-17) Amazon.co.jpで詳細を見る 街という空間を利用した知能バトルが増えてきてどんどん楽しくなっている『ジョジョリオン』。少年向け週刊誌から離脱以降、どんどん女体表現のなまめかしさも増してるんだけれども、荒木先生は、女性の胸ぐらを掴んだときに胸元がはだけて「ハッ、これは!?」という流れが好きなのではないか……。そしてまだ4巻なのに、設定がいろいろ混み入りまくっていてだんだんついてこれない人がでてきそうな……。

永野護 『ファイブスター物語』(5)〜(6)

ファイブスター物語 (5) (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.21 永野 護 角川書店 Amazon.co.jp で詳細を見る ファイブスター物語 (6) (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.21 永野 護 角川書店 Amazon.co.jp で詳細を見る ( 第1巻〜第4巻までの感想はこちら )第5巻から話の飛び方がエラいことになっているなあ〜、という印象が。第4巻から突然登場するドラゴンの存在が、物語のファンタジックな要素をより特徴づけているのだが、それと同時にサイバー・パンクな用語系のめちゃくちゃさもスゴくなっているし、時系列も複雑にクロスしながら進行していくので「これ、まともに読んでついていける人いるの? というかよく連載が許されていたな……」と驚かざるを得ないです。途中でセリフが英語になったりするし(別に難しい英文ではないけれども)、90年代のヒップなスラングが日本語の流行語と合成されてセリフ回しに使われているところとかは、いまは時代を感じさせるものになっている。とくに6巻はフルポリゴンで出力されたキャラクターの3DCGも(物語本編にはでてこないけれども)でてきて、その制作裏話も含めてちょっとした時代のドキュメントになっているようにも思いました。6万4500ポリゴンのキャラクター(造詣は『トバルNo.1』みたい)のカメラ移動だけで、5分近くかかったという制作環境……なんかいろいろと早過ぎた感がある。あと、すっごい思うのは重要キャラクターの名前の長さによって、その重要さを演出しようとするのは、FSSに源流があるんでしょうか……と思いました。主人公の名前がフルネームが「アマテラス・ディス・グランド・グリース・エイダスIV」というんだけれど、ラテン語・英語・日本語が合成されて醸し出されるのは、非常に濃厚な中2感なのですね……。なんかいろいろと考えさせる漫画である……。

雲田はるこ 『昭和元禄落語心中』(1)〜(3)

昭和元禄落語心中(1) (KCx ITAN) posted with amazlet at 12.10.21 雲田 はるこ 講談社 (2011-07-07) Amazon.co.jp で詳細を見る 昭和元禄落語心中(2) (KCx(ITAN)) posted with amazlet at 12.10.21 雲田 はるこ 講談社 (2012-01-06) Amazon.co.jp で詳細を見る 昭和元禄落語心中(3) (KCx(ITAN)) posted with amazlet at 12.10.21 雲田 はるこ 講談社 (2012-10-05) Amazon.co.jp で詳細を見る 雲田はるこの話題作『昭和元禄落語心中』の既刊を読む。落語をテーマにした漫画はすでにいろいろとあり、ストーリーの骨格部分もとても既知感があります。「身寄りのない主人公が、○○を生き甲斐と決めて道を歩み始めようとする」という冒頭部分(○○のなかには、落語、が入る)、あるいは2巻から始まる「ラディカルで破天荒な天才」と「クールな秀才」というライヴァル・親友関係の因縁話は、なにかのテンプレートにハマっていると言っても過言ではないのですが、とても面白い! 妻が読んでいたのを借りたのですが「これはベテランの作家さんなのですか?」と訊ねたくなる古い少女漫画ライクな絵柄も魅力的ですし、またその絵柄にはラインの美しさ、というか、手塚マンガに出てる女体にグッとくる感じというか、そういう艶っぽい魅力を感じます。もともとはBLから商業デビューをした作家さん、という前知識を仕込んでしまうと余計に、男同士の絡みにも艶やかさを読み取ってしまいそうになる。 伝統であるとか、風習であるとか、とても落語について勉強されて描かれており、そこには現実の落語界でおこった歴史がモチーフになっているのでは、というのも感じられます。「落語が生き延びるために、伝統を破壊する」というラディカルな登場人物の思想には立川談志が宿っているでしょうし、戦時中古今亭志ん生も満州へ慰問芸人として渡っている。物語における「現代」が昭和のいつなのか明示されていないのですが、推測するに落語教会分裂騒...

Moebius 『Arzach』

Arzach posted with amazlet at 12.10.13 Moebius Cross Cult 売り上げランキング: 3033 Amazon.co.jp で詳細を見る 9月のパリ旅行の際に「あ、せっかくだからバンド・デシネ(フランスの漫画)買ってかえるか!」と思って、ヴァージン・メガストアにてメビウスことジャン・ジローの代表作のひとつ『Arzach』を購入してたのだった(上記書影はドイツ語版。 フランス語の原書 は今のところAmazonでは買えないみたいだ。ほとんどセリフがない漫画なので、言語はとくに問題ないでしょう。あと 画集 も一冊買ったけど、それは友達にお土産であげた)。宮崎駿が「ナウシカは『Arzach』の強い影響かにある」と発言していたり、大友克洋はメビウスから影響を受けているとかは聞いていたけれど、実際に読んでみたら「え!? こんなにそのまんまなの!?」ととても驚きました。粘菌や王蟲、メーヴェ、ユパ様、ドルクの聖都シュワらしきモノが『Arzach』には描かれている。 この漫画自体は、程度の低い下ネタだったり、ストーリーとも言えない短いエピソードのあつまりなのですが、宮崎駿はここにあるヴィジュアル・モチーフから『ナウシカ』の壮大な物語を組み上げたのだなあ、と思いました。あと大友克洋とメビウスの重力感に通ずるものを感じたり。擬音の書き込みも一切なく、サイレント・コミックという表現に相応しく、翼竜が滑空するコマがとても静かに流れていくのが観ていて気持ちよい。アメリカのヴィジュアル・ノヴェルとも違った漫画言語(とも言うべきもの)がメビウス、というかバンド・デシネにはあるのだなあ、と思いました。 ユーロマンガ 1 posted with amazlet at 12.10.13 ニコラ・ド・クレシー カネパ、バルブッチ、その他 飛鳥新社 売り上げランキング: 203285 Amazon.co.jp で詳細を見る 日本にはこういうバンド・デシネを中心としたヨーロッパの漫画を紹介する雑誌もあり、少しずつチェックをしていきたいところ。ちなみにパリのヴァージン・メガストアの漫画コーナーは「バンド・デシネ」、「コミック(アメコミ)」、「マン...

永野護 『ファイブスター物語』(1)〜(4)

ファイブスター物語 (1) (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.06 永野 護 角川書店 Amazon.co.jp で詳細を見る ファイブスター物語 第2巻 2005EDITION (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.06 永野 護 角川書店 Amazon.co.jp で詳細を見る ファイブスター物語 (3) (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.06 永野 護 角川書店 Amazon.co.jp で詳細を見る ファイブスター物語 (4) (ニュータイプ100%コミックス) posted with amazlet at 12.10.06 永野 護 角川書店 売り上げランキング: 95752 Amazon.co.jp で詳細を見る 1986年から断続的に連載が続いている永野護の『ファイブスター物語』を読み始めました(4巻まで到達)。『ファイブスター物語』に登場するロボット兵器、MH(モーター・ヘッド)のガレージ・キットの作例は、中学生の頃に友達の家で読んだ『ホビージャパン』で目にしていて、当時から「なんだ、この腰が細くてなんかワシャワシャと装飾がついているロボットは〜」と思ってたんですけれども、それを考えたら10年以上経ってようやく漫画に手を出したことになります……と、それはさておき、ちょっとビックリしましたね。まず、第1巻の異様に動きの少ない紙芝居みたいな少年漫画とは異質な構成も「デザイナーが漫画を描くとこうなるのか」と驚かされたんですが(それは第2巻以降で気にならなくなりました)とにかく荒唐無稽とさえ評したくなるほどに壮大なスケールの世界観(なんといっても主人公が神)は、連載当時26歳の人間がどうやって考えたのか不思議に思ってしまいます。しかも、そのストーリーは年表によって最初に語られ、漫画は詳細の説明になっている、という。白土三平の忍者マンガと、ロード・ダンセイニのファンタジーと、『風の谷のナウシ...

荒木飛呂彦 『ジョジョリオン』(3)

ジョジョリオン 3 (ジャンプコミックス) posted with amazlet at 12.09.21 荒木 飛呂彦 集英社 (2012-09-19) Amazon.co.jp で詳細を見る 書店で見かけて手にとったとき「なんか薄くねえ……?」と思ったが、なかみは激アツな展開。第2巻で示唆された『スティール・ボール・ラン』との連続性がここではっきりと明らかになり、まるで2周目のジョジョの系譜がはじまったかのよう。これはもしかして……、第6部にでてきて唯一1周目の世界からの越境者であるあの少年が登場したりするのでは……? まさか、記憶がない主人公の記憶がないのはあのディスクが……? などと妄想も爆発してしまうではないか。細かいところをよく見たら、第4部にでてきたあんなものやあんなマークもあるし。そして、荒木先生は、目が大きくてちょっと離れている女性の顔が好きになってきたのだろうか……。

安達哲 『さくらの唄』

さくらの唄(上) (講談社漫画文庫) posted with amazlet at 12.09.09 安達 哲 講談社 売り上げランキング: 24080 Amazon.co.jp で詳細を見る さくらの唄(下) (講談社漫画文庫) posted with amazlet at 12.09.09 安達 哲 講談社 売り上げランキング: 17505 Amazon.co.jp で詳細を見る 10代の頃にありもしなかった、そして今後ありえるはずのない心の痛みらしきものを、こうした漫画を読むことで仮に受けて、グッと来たりしてます。

五十嵐大介 『魔女』『SARU』

魔女 1 (IKKI COMICS) posted with amazlet at 12.06.02 五十嵐 大介 小学館 Amazon.co.jp で詳細を見る 魔女 2 (IKKI COMICS) posted with amazlet at 12.06.02 五十嵐 大介 小学館 Amazon.co.jp で詳細を見る SARU 上 (IKKI COMIX) posted with amazlet at 12.06.02 五十嵐 大介 小学館 Amazon.co.jp で詳細を見る SARU 下 (IKKI COMIX) posted with amazlet at 12.06.02 五十嵐 大介 小学館 (2010-10-29) Amazon.co.jp で詳細を見る 五十嵐大介、面白い! まるで諸星大二郎とアビ・ヴァールブルグを繋ぐ漫画家とでも言いましょうか、『魔女』では世界中の魔女の伝承を題材にし、『SARU』ではヘルメス・トリスメギストスや孫悟空などが同じ源をもつスピリチュアルな存在である、というスゴいフカシが展開され、壮大でファンタジックなミステリに魅了されます。物語はとてもスタイリッシュで、語られるものの背後に語られたこと以上の教養・知識が伺える。そこが、諸星大二郎との読後感の大きな違いでした。ディティールが非常に細かい、けれどもそれが衒学趣味へと入り込まない。優れたバランス感覚。作家は漫画版『風の谷のナウシカ』の影響下にある、ということですが、それが納得できますし、黒田硫黄と親交がある、というのもなんだかうなづける。 『暗黒神話』、『風の谷のナウシカ』、『SARU』と並べて考えてみる。こうした並置が妥当なものかは分かりません、が、いずれも神話を取り扱ったマンガと呼べるようにも思います。ただ『SARU』だけがグノーシス的な二元論の性格を強く持っているのでやはり適当ではないのかも知れない。『暗黒神話』、『風の谷のナウシカ』は世界の理(ことわり)を主人公が探求していくことと同時進行で物語が進みます。『SARU』もまた、そうです。しかし、『SARU』は単純に世界の理...

荒木飛呂彦 『ジョジョリオン』(2)

ジョジョリオン 2 (ジャンプコミックス) posted with amazlet at 12.04.20 荒木 飛呂彦 集英社 (2012-04-19) Amazon.co.jp で詳細を見る 前作『スティール・ボール・ラン』との連続性が少しずつ示唆されているが、物語はそこと特段関係なく進んでいく。とにかく話の密度が濃いですね。こういう密室アクションというか、サスペンス風な進行を前作のあいだにかなり溜めていたのではないか、と勘ぐってしまいます。現実世界のあれやこれやを参照したと思わしきデザインについて考えを巡らすのもご一興。『スティール・ボール・ラン』にでてきたシュガー・マウンテン、と思いきや、水原希子かよ、村上隆かよ、フランク・ロイド・ライトかよ、という攻めっぷり。そして、扇情的なカットの数々。ミステリーがセクシーと、セクシーがヴァイオレンスとミクスチュアされて生み出される、このスリル……。早く続きが読みたいですよ。

荒木飛呂彦 『ジョジョリオン』#1

ジョジョリオン 1 (ジャンプコミックス) posted with amazlet at 11.12.21 荒木 飛呂彦 集英社 (2011-12-19) Amazon.co.jp で詳細を見る 『ジョジョの奇妙な冒険』第8部「ジョジョリオン」の舞台は第4部の舞台となった杜王町。だが、第7部の「スティール・ボール・ラン」と同様に第6部以前の物語とはパラレルな世界での話となる。 第6部のクライマックスで「世界が一周し」、第7部では複数次元の平行世界を行き来するなど、ジョルダーノ・ブルーノ的(主人公の武器が無限の回転!)というか、量子論的というか、とにかく大変なことになっている、としか言いようがない世界でストーリーが展開されてきた。第8部の冒頭では、「3月11日」に大地震が起きたことが示される。杜王町(宮城県仙台市青葉区がモデルとなっている)の地面は隆起し、奇妙な「壁」が現れる。この壁については、今のところ、善悪の評価がされていないが、第8部の舞台が物語外の現実と密接な平行世界であることが示される。 第7部の途中から『ジョジョ』は月刊連載に変わり、振り返ってみれば変更直後は物語のペースと刊行ペースとの足並みが揃わない感じで緊迫感にかけた展開が続いていたように思う。それが終盤、密度と緊迫感、そして設定の難易度がどんどん高まっていき、以前の荒木飛呂彦のパワーへと完全に復調して最後を迎えた。そして、この第8部では完全復調状態のまま謎の多い物語の冒頭を駆け抜けている。第7部での移動しながらの闘いという新しい試みから、第4部で描かれた密室での闘いへの回帰も「やっぱり、荒木飛呂彦はこれなんじゃないか」と思わせるものだ。 主人公のスタンド使いが、トマス・ピンチョンに似ていること。荒木飛呂彦がどうやら「テンドン」という古典的な喜劇の手法を覚えたらしいこと。気になる点は盛りだくさんだが、新しい物語が始まったこと、それがとても面白いことが嬉しくて仕方ない。早く続きが読みたいィィィッ!