ペット・サウンズ (新潮文庫) posted with amazlet at 13.04.29 ジム フジーリ 新潮社 (2011-11-28) 売り上げランキング: 144,021 Amazon.co.jpで詳細を見る The Beach Boysの『Pet Sounds』を語るストーリーは、ほとんどクリシェと化している。The Beatlesの活躍に刺激を受けたブライアン・ウィルソンが、狂気的な情熱で作り上げた大作であり、それは過去のThe Beach Boysというバンドのイメージをかなぐり捨てるものであった。その音楽はリアルタイムのリスナーたちを戸惑わせ、怒りさえも呼ぶ問題作だった……という風に。本書を訳している村上春樹もまた『Pet Sounds』でリアルタイムに困惑した人間のひとりである。 このアルバムを評した著作は何冊もあるし、わたしもこのジム・フジーリによる本のほかに キングズレイ・アボットによるThe Beach Boysがこのアルバムに至るまでを追った本を過去に読んでいた 。本書で扱われている、ウィルソン兄弟が受けた父親からの虐待や、ブライアン・ウィルソンの精神的な問題、あるいはバンド内の人間関係といったトピックは、アボットの本と重なっている。ただ、本書は『Pet Sounds』をThe Beach Boysのイメージを捨てた作品、としてではなく、ブライアン・ウィルソンの音楽的成長のマイルストーンとして扱っている切り口に特徴がある。 ブライアン・ウィルソンはある日突然あのような境地に達したわけではなく、あの世界は、サーフィン、車、女の子、とカリフォルニア的なテーマを歌った初期の(と言っても、一枚目のアルバム『Surfin' Safari』から『Pet Sounds』のあいだには4年ほどしか時間の隔たりがない)作品にも潜んでいたのだ、とフジーリは言う。その形跡をアレンジや、楽曲の構成を細かく追いながら(譜例を使った解説などはないけれど)さぐっていくところは本書の読みどころのひとつだろう。 そういえば本書を読んでいて、わたしのなかではウィルソン兄弟が受けた父親からの虐待エピソードが、ジャクソン兄弟のエピソードと混同していることに気づいた。ベルトの革でぶたれたのは、ブライアン・ウィルソンだ...