オリジナル・ラブ、田島貴男による初の著作。音楽、ギターとの出会いから中学・高校時代、そして上京以降現在に至るまで、自らがどんな音楽遍歴をたどり、どんなことを考えながら音楽を作ってきたのかを語り尽くした一冊。表紙の写真は、すっかりライク藤岡弘、になっている濃ゆい著者自身のイメージにぴったりだが、中身も濃かった。とにかく探究心があって、努力をして、どんどん先に進んでいくミュージシャンなんだな、という思いを新たにする。「天才」と呼ばれることが嫌いだ、と著者は語っている。天才、と呼ばれてしまうと、自分がしてきた努力をなんだか無視されてしまうようだから。でも、著者の、努力を続けられる点、これはやっぱり才能としか言いようがない。努力の天才、探求の天才。好きこそ物の上手なれ、という言葉があるけれど、ここまで普通の人はこだわれない、と思う。語り口の軽妙さも素晴らしくて。著者が相当な読書家であることはよく知られているが、本書にもあまり説明もなく、 スティーヴ・エリクソンの『Xのアーチ』 の話が出てくる。くどくど説明せずに、エリクソンがでてくるから余計に言葉が真に迫ってくる、気がする。90年代のタイアップ文化での苦労、そして、音楽不況下での苦労など、業界話も面白く読んだ。「“ふつう”が一番凄いんだぞっていうことは、10代の頃から思っていた」。こういう点はこないだ読んだ 土井先生の本 にも通ずるかな。