現代思想 2016年8月臨時増刊号 総特集◎プリンス1958-2016 posted with amazlet at 16.07.26 松浦理英子 向井秀徳 西寺郷太 及川光博 萩原健太 高橋健太郎 ピーター・バラカン 大谷能生 湯浅学 吉岡正晴 佐々木敦 青土社 (2016-07-22) 売り上げランキング: 117 Amazon.co.jpで詳細を見る こないだ読んだ 『ミュージックマガジン』の別冊 とは、西寺郷太、萩原健太、高橋健太郎という書き手が重複。しかし、読み物としてのヴォリューム感、情報量は『現代思想』のほうがはるかに上回っている。基本的にはどの書き手も、プリンスを語るうえでのいくつかのキーワード(セックス、気持ち悪さ、そして、それと相矛盾、あるいは共和する、プラトニックさ、カッコ良さ)をなぞっていて、紋切り型的、といえば、紋切り型の評論と言えるものもあるのだが、切り口の良さや視点の鋭さを感じさせるものが多く含まれている。 たとえば、北丸雄二によるプリンスと「エホヴァの証人」の関係を考察した文章は、ひとりのアーティストに及んだある宗教の影響、という「点」だけを見る評論で止まらず、アメリカの宗教カルチャーという「面」に視点を広げてくれる(これは「プリンスと人種をめぐる諸相」と題された出田圭による文章にも同じことが言える)。読みながら、ある種の特別なアーティストとは、このように別な世界への窓になってくれるのかもしれない、という感想を持った。 ほかに面白かったのは宇野維正による「踊れなくなったプリンス」。「杖がないと歩けないぐらい下半身の状態が悪いのだが、宗教的な理由により手術を拒否していた」という話はプリンス・ファンには有名な話なのだが、そんな報道が出た後も、スーパーボールのハーフタイムで派手なパフォーマンスを披露したりしてたから「手術の話とかなんだったのよ……」とみんな思ってたハズなのである。そこで、この文章はプリンスの身体、そして健康問題に着目し、本当はやはりプリンスはボロボロだったのだ、という現実をファンに気づかせる。思うに、これは逆方向の「神格化」を進めている。ボロボロだったのに、だれもそのボロボロさに気づかなかった、だから、プリンスはスゴい、と。 あと、及川光博へのインタヴュー記事も良...